築30年の中古住宅

中古住宅を購入する人は増えました。以前の日本では新築志向が極端に強くて、新築を買えないから中古を仕方なく買うという人がほとんどでしたが、今はあえて中古住宅を購入する人もたくさんいます。ただ、中古住宅を検討するなかで、築年数が何年くらいの物件がよいか迷う人は多いです。

築5~10年の築浅の中古住宅と築30年以上の中古住宅では、購入後にかかる費用も建物の耐久性も異なるわけですから、このあたりのことは慎重に考えなければならないですね。

以前に、「築20年の中古住宅のメリット・デメリットと購入時の注意点」という記事を書いていますので、築20年くらいの物件を検討しているなら、そちらも参考にしてください。今回は築30年程度の中古住宅を買うメリット・デメリットと注意点を紹介します。

Contents
  1. 築30年くらいの中古住宅の基礎知識
  2. 築30年の中古住宅を買うメリット
  3. 築30年の中古住宅を買うデメリット
  4. 築30年の中古住宅を買うときの注意点
  5. 耐震性の確認の必要性とその実現の困難さ
  6. 築30年の住宅のホームインスペクションで見つかった不具合

築30年くらいの中古住宅の基礎知識

築30年の中古住宅の基礎知識

築30年くらいの中古住宅といえば、どのようなイメージを思い浮かべますか?

見た目は古く感じるけどまだまだ現役の建物と考える人や、相当古くてそのまま住むのは難しいとか、耐震性に問題があるといったイメージを持つ人などがいます。

ここでは、築30年くらいの住宅の基礎的なこと、実態について説明します。

築30年は建物の修繕が必要で、補強が必要なこともある

新築してから30年ほど経過した住宅は、長い間、風雨と日照にさらされてきただけに、屋根や外壁などの外観においては、相当に劣化が進行しています。また、キッチン・トイレ・ユニットバスなども劣化が進行し、陳腐化しているように見える人もいるでしょう。

特に屋根や外壁は、新築後10年くらいで最初のメンテナンスが必要だとされていますが、それを大きく超えている年数のため、もし、これまでに何も修繕などをしていなければ、すぐにでも対応を考える必要があるでしょう。

また、床下や屋根裏などの状態次第では、耐震性を考慮した補強工事を検討すべき状況のときもあります。

個々の住宅で劣化状態が大きく異なる

30年も経過していると、どの建物でもそれなりに劣化が進行しているわけですが、進行スピードはどれも同じというわけではありません。

立地・環境などの条件の違いによって、日照や風雨の影響の大きさに違いがありますし、これまでに所有者などがどれだけのメンテナンスをしてきたかによる影響も非常に大きいです。

建物は築年数が経過するほどに、個々の住宅によって状態に大きな差が生まれやすいことを理解しておきましょう。

築30年で建て替えするのはもったいない

いろいろな人と話していると、築30年経過した住宅ならば、リフォームしても意味がないから建て替えすべきだという意見の人がいます。これは正しい意見でしょうか?

前述したように、建物の状態は個々の住宅によって大きな差があるものです。30年でもまだまだ長く安心して居住できるものもたくさんあるので、築年数だけで建て替えすべきと判断するのはもったいないです。

建物の劣化状態をよく見極めたうえで判断すべきでしょう。

建物価格の評価が著しく下がっている

建物は古くなるほど、評価が低くなります。都心の中古マンションでは、築年数の経過による建物の劣化よりも、立地や高層などの条件次第で価格が上がることも多いですが、一戸建てでは建物価格の下落が顕著です。

よって、古くなるほど安く買える傾向にあります。

築30年の住宅となれば、売却時の査定でも建物価格は僅かしか見てもらえないことが多くなりますし、状態があまりに酷いと建て替えを前提として建物価格をみてもらえないどころか、取り壊し費用がかかる分、マイナス評価とされることまであります(物件によって差異があります)。

築30年くらいの中古物件の販売棟数は多い

築30年の住宅は、新築当時に購入した人たちが、ライフスタイル、家族構成、仕事などの面で大きな変化が生じていて、住み替え(転居)する人も多くなります。また、築浅のときに中古住宅として購入した人が、この時期に売却することも多いです。

まだまだ使える建物として販売されている物件や、建て替えを検討する事も考慮して販売されている物件などが混在しますが、売り出されている棟数は多いです。

築30年の住宅は売れないか?

日本では、多くの人が新しい住宅を好む傾向にあります。2000年以前に比べれば、中古住宅を購入の選択肢の中心と考える人も増えましたが、それでも新築を好む人の方が多い状況です。

中古住宅でも古いものほど人気がなくて、売れないというイメージの人がいますが、実は築年数だけで売れるかどうか判断できるものではありません。

SUUMOなどのサイトで物件情報を探すときに、築年数を限定することが多いので、家探しをする人に見てもらえる機会は新しいものより少ないと言えますが、価格の下がった古い住宅を探している人もいるのです。

そういった人たちが内見にきたときに、良い印象をもってもらえる状態の建物であれば、十分に売ることができます(買い手のニースがあります)。

買ってから後悔する人もいる

築年数が30年ほど経過した中古住宅を購入した場合、その後、想像以上にメンテナンス費用がかかってしまい、買ったことを後悔している人も少なくありません。

建物の表面的な部分が綺麗なものであっても、住み始めてから配管からの漏水やバルコニー周りからの雨漏り、外壁の塗装などでいろいろなコストがかかるのはよくあることです。

これくらいの年数の住宅を買うのであれば、買った後に、メンテナンスなどにある程度の費用がかかることを想定しておき、購入費用・購入時に必要な諸費用だけではなく、購入後に必要となる費用のことまで予算(住宅購入の資金計画)に含めておくと、このような後悔は減るでしょう。

築30年の中古住宅を買うメリット

築30年の中古住宅を買うメリット

築30年経過している住宅でも、必ず良いところはあります。また、築30年も経過しているからこそのメリットもあります。古いからというだけで敬遠する必要はないのです。この年代の中古住宅を購入するメリットを紹介します。

  • 新築より安い
  • 築浅の中古住宅より安い
  • 価格の下落リスクが低い
  • 価格が上昇する可能性が新築や築浅より高い
  • 間取りや広さを確認してから購入できる
  • 自分好みにリフォーム・リノベーションしやすい

新築・築浅より安い

新築住宅や築浅の中古住宅と価格について比較するときは、同じエリアの同程度の条件の物件と比較しなければなりません。最寄り駅や駅からの所要時間、土地・建物の大きさなどの条件が近い物件と比較すれば、古い住宅の方が安いことが多いでしょう。

その理由は単純に建物価格が古いものほど下がるからです。

もちろん、きちんとメンテナンスに手間とコストをかけている物件とそうではない物件を比較した場合、建物価格として査定されている金額に相違が出ていることもあります。売買する時期から近いときにリフォームしたものとそうでないものにも金額に相違があるものです。

価格の下落リスクが低く上昇する可能性がある

築30年の中古住宅は、建物価格が新築時よりも大きく下がっており、それ以上は下がりづらいところまで来ていることが多いです。つまり、購入後、建物価格が下がるリスクは低いわけです。

一方で土地価格は建物の築年数とは関係がないため、市場の相場動向に左右されます。景気が良くなったときやその街の価値があがれば、土地価格も上がることが多いです。逆に街の価値が下がれば土地価格も下がることになります。

市場相場の動向や街の価値次第では土地価格があがるので、建物価格がほとんど下がらなければ、購入後の資産価値は上昇する可能性があるというわけです。

安定した資産価値を期待できる

築30年の中古住宅は、建物の評価がもともと低いため、不動産としての資産価値に占める土地の割合が圧倒的に高くなりがちであり、且つ、土地価格は建物と違って劣化による下落がないことが特徴的です。

土地の資産価値は建物より安定しているため、この築年数の住宅の資産価値は安定していると言えます。

マイホーム購入の大きなデメリットの1つとして、資産の毀損があげられますが、そのリスクが低いことはメリットだと言えますね。

実物を見て購入でき、リフォームしやすい

間取りや実際の広さ、形状、建物の状態を見てから購入判断できるのは、中古住宅に共通するメリットです。築年数が浅いか古いかは関係ないですね。

ただ、リフォームやリノベーションをしやすいというメリットは築浅の中古住宅ではあまり感じられません。なぜならば、まだ内装・外装・設備が新しいので、購入してからリフォームしようと考える人は少ないからです。やるとしてもクロスの張替えくらいではないでしょうか。

築30年も経過している住宅で、まだ大規模リフォームをしていない住宅ならば、思い切ってリノベーションに投資するのもよいでしょう。もちろん、予算と相談しなければなりませんが、間取りの変更も考慮したリノベーションで家族構成やライフスタイルに合わせた住宅にしやすいといえます。

中古一戸建て住宅診断(ホームインスペクション)
中古住宅のホームインスペクション

築30年の中古住宅を買うデメリット

築30年の中古住宅を買うデメリット

次に築30年の中古住宅を購入するときのデメリットについて考えてみましょう。なかには重要なこともありますから、慎重に考えて判断したいものです。

  • 建物の劣化リスクが高い(耐久性の問題)
  • 耐震性が低い可能性が高い
  • 購入後に想定外の補修・補強コストがかかることがある
  • リフォーム済み物件なら隠ぺい箇所が心配
  • 水周り設備の交換費用が高い
  • 売主の契約不適合責任が付いていないことが多い

主だったデメリットは上のとおりです。いずれも簡単には許容できることではありませんね。

建物の劣化リスク・耐震性の問題

建物は古いものほど劣化が進行していくので、築30年の物件を購入するのであれば、それなりに劣化リスクがあることは考えておかなければなりません。劣化進行具合によっては、住宅の耐久性が著しく下がっていることもあるからです。

但し、築30年の住宅であるにも関わらず、建物状態がよくて築15年くらいのものとそれほど変わらないものもあります。買主としては、そういう家を買いたいものですね。

たとえば、外壁やバルコニーなどの雨漏りの発生原因となることが多い箇所の劣化(防水大事なシーリングの著しい劣化など)があれば、購入するか慎重に検討すべきですし、購入するとしても早期の補修を前提とすべきです。

こういったことは、ホームインスペクション(住宅診断)で専門家に診てもらうと良い参考になります。

また、築30年経過しているということは、建物の耐震性について心配しなければならないときもあります。耐震性、つまり地震に耐える力です。

築30年程度ということは、1990年代の建物ということになります(※2023年4月に修正)。既に耐震基準が変わった後の時代の家ですから、旧耐震基準の住宅を購入するよりは耐震性リスクは低いと言えますが、基礎などの構造耐力に影響がある部分の劣化がひどい場合には耐震性が下がっていることがあります。また、耐力壁(=耐震性を考える上で重要な壁)のバランスが悪くて耐震性が低いということもあります。

ですから、可能であれば耐震診断を受けておくのが好ましいです。

耐震性は大事なことですので、詳しくは後述していますので、ご覧ください。

購入後の補修・補強リスク

中古住宅を購入して入居してから建物の様々な問題に気づいた場合、それを補修・補強するためにコストがかかります。基本的にはその負担は買主ですから、デメリットとなります。購入前からリフォームしようと思っていたところならばよいですが、想定外の箇所ならば厄介ですね。

想定外のことは、築年数が古い住宅ほど起こりやすいですから注意したいものです。

リフォーム済み物件なら隠ぺい箇所が心配

また、古い住宅を不動産業者が買い取って、リフォームしてから再販している物件も少なくありません。こういった物件は、内装や設備を綺麗にしていたとしても、隠れて見られないところまではリフォームしていないため、隠ぺい部分にこそ問題が隠れていることがあります。

ひどいときには、もともと存在していた点検口を無くしてしまい、屋根裏や床下にある不具合をすぐには発見できないようにしていたケースもありました。リフォーム済み物件を購入した人の多くは、自分でリフォームしないので隠ぺい部分を解体することもなく、発見が遅れがちなのです。

水周り設備の交換費用が高い

築30年くらいの中古住宅で、これまでにキッチンやトイレ、お風呂などの水周り設備を交換していない場合、設備が大変古い状況であるため、交換の時期がきている可能性が十分に考えられます。

住宅のリフォームの工事項目のなかでも、水周り設備の交換は最もコストが高くなるものですから、購入前に慎重に予算の検討が必要です。また、キッチンやトイレなどと一緒に配管も交換することになれば、その費用はさらに高くなります。

賃貸中の物件、つまり投資用のオーナーチェンジ物件の売買に際して、賃借人がいるから室内を見せてもらえない物件がありました。内部を見れないことは、賃貸している物件を買うときのリスクの1つです。購入後しばらくしてから賃借人が退去したので、室内を点検すると浴槽の大きな割れや洗面台からの漏水などがありました。賃借人はもうすぐ出ていくからと考えて何も言わずに使っていたようです。

この物件を購入した人は、ユニットバスの交換、漏水被害の補修工事、配管交換などで300万円超の負担を強いられることになりました。古い建物ほど、こういったリスクが高まることを理解しておきましょう。

売主の契約不適合責任がない

売主の契約不適合責任とは、売買した中古住宅に隠れた瑕疵が見つかったとき、売主が補修費用などを負担する責任のことです。築浅の中古住宅ならば、売主が引渡し日から3ヵ月程度の期間は契約不適合責任を負うとする条件で契約することが多いです(不動産業者が売主なら2年間とすることが一般的)。

しかし、築30年の住宅の場合、この契約不適合責任を免責にすることが多く、購入後に何かあっても買主が売主に補修等を要求することができないので、それだけ買主がリスクを負うことになるわけです。但し、売主が不動産業者である場合は築年数に関わらず契約不適合責任を免責とすることはできないので、2年間の責任を負うとすることが一般的です。

築30年の中古住宅を買うときの注意点

築30年の中古住宅を買うときの注意点

築30年の中古住宅を購入するメリットとデメリットがわかったところで、購入するときの注意点について紹介します。

建物価値がなくても(売買価格への転嫁がなくても)安心して暮らせるか要チェック

築年数が古い住宅である場合、売買価格の査定の際に建物価格をほとんど見ていないことが多いですが、そのためか不動産業者から「この物件は、建物価格が0円なので建物のことをいろいろ気にしても意味がない」などと言われることがあります。

たとえば、売買するときの金額に建物価格が全く含まれていないとしても購入する人が、その後も使い続けるのであれば建物のこともきちんと考えて購入判断しなければなりません。安全性もそうですが、維持管理コストもかかるわけですから、当然のことです。

購入してすぐに多大なコストがかかる補修工事が必要になるようでは、建物価値が0円とというよりもマイナス評価すべきだったのではないかと思えます。実際にそのような酷い状態の建物もあるからです。

売買価格がどうかではなく、その建物を使うかどうかですね。

ちなみに、まだ普通に生活できるような状態の建物であれば、売買価格に1円も含まれないということはほとんどないでしょう。その状態にもよりますが、100万円単位で価格を上乗せしていることが多いです。

ホームインスペクション(住宅診断)は必須

築30年の物件と聞くと古い住宅を想像する人も多いでしょう。はじめて家を買う人のなかには、20歳代の人もいますから、世に出て自分よりも長い住宅ということになりますね。見た目が古くても建物の状態がよいものはいくらでもありますから、その見極めこそが築古物件の購入の成否を決めるといっても過言ではないでしょう。

そのために役立つのが第三者によるホームインスペクション(住宅診断)です。

建物を診るには、どうしても建築に関わる専門知識や経験が必須です。少し勉強したくらいで、いろいろな建物の部位に出ている症状を適切に判断していくことはできません。専門家に代わりに診てもらうことで、その診断結果を購入判断の1つの材料とするとよいでしょう。

ここで注意すべきは、利用すべきホームインスペクション(住宅診断)は売主や不動産業者側のものではなく、買主側のものであることです。不動産業者が斡旋するインスペクションの多くには、買主にとって必要な調査項目が含まれていませんし、調査結果の表現もわかりづらく誤解しやすいものになっています。

買主にとって有益な調査結果を得るためには、買主向けに行っているサービスを自ら探して依頼することが重要なので、自分で探すようにしましょう。

構造部の補修・補強も含めたリノベーションや将来の建替えも検討

ホームインスペクション(住宅診断)で建物の状態を確認するとはいえ、見られない部分もありますし、劣化していることは確かですから、やはり将来の補修・補強工事のコストもイメージしておく必要があります。なかには、ぼろぼろになるまでそのまま住み続けるという人もいますので、考え方はそれぞれですが、基本的には補修・補強のことを考えて、購入後も早めに資金を積み立てていく前提で購入することをオススメします。

バブル経済時代の欠陥物件は多い

30年前といえば、バブル経済の頃でもあります。その頃は、手抜き工事も多かったのでひどい住宅も少なくありません。見た目の仕様は当時においては豪華なものものありますが、大事な部分(床下や屋根裏)で手抜きされていては大変ですね。

見た目の豪華さや仕様で判断せず、当時の時代背景も考慮してよく確認してから購入判断するようにしてください。

既存不適格建築物に要注意

築30年くらいの中古住宅を購入する人のなかには、何年か後には建て替えることを視野に入れている人も少なくありません。しばらくは、大規模なリフォームをせず、将来の建て替えを考えるというのは、1つの有効な選択肢です。

その時に注意すべきことが、既存不適格建築物です。

既存不適格とは、新築当時の法令を順守していたものの、その後の法改正によって、現行法規には適合していないことを意味しています。古い中古住宅を買おうとすると、そういう物件は多いですから、このことは知っておく必要があります。

たとえば、将来、建て替えするときには、既存の住宅と同じ大きさの建物を建築できないということはよくあることです。建て替えて今より小さな家になるのでは困るということなら、他の物件を購入検討する必要もあるでしょう。

築30年の住宅にあと何年くらい住めるか?

ホームインスペクションの仕事をしていると、多くの人から、「築30年の家を買おうと考えているが、あと何年くらいもつかわかるか?」と尋ねられます。

この質問には非常に回答が難しいです。

その理由は以下の3点です。

  • どの状態をもっていると考えるか、個人差が非常に大きい
  • 建物の劣化状態は物件毎の差異が大きい
  • これから先にどれくらいメンテナンスに手間と費用をかけるか個人差が大きい

住宅街を歩いていると、見た目では相当に傷んだ状態(ボロボロの状態)でも気にせずに暮らしている人はたくさんいます。逆に驚くほど早い段階で建て替えする人もいます。

物件と個人による差異があまりに大きいので、何年住めるか回答するのは無理があるのです。むしろ、ここで「20年です!」なんて回答する方が不自然とも言えるでしょう。

耐震性の確認の必要性とその実現の困難さ

築30年の中古住宅は、新築時よりそれなりに長い期間を経過していることより、建物の耐震性を心配する声をよく聞きます。購入を検討する人によって、建物の構造耐力や耐震性には強い関心がるのも当然のことですね。そこで、最後に築30年の住宅に関する耐震性について解説します。

耐用年数と耐震性は別物

古い中古住宅の購入を検討中の人から、耐用年数が心配だと聞くことがあります。耐用年数とは、減価償却費の計算などに用いることがあるものですが、相談者の話をよく聞くと、建物の耐震性や構造耐力の心配のことを言っているケースが多いです。

検査済証の有無の確認

30年前、つまり1990年代の前半の住宅では、建築する際に必要な建築基準法に基づく建築確認申請をしていない住宅はほとんどありません。しかし、その申請後、完成したときに受けなければならない完了検査を受けていない住宅はまだまだ多い時期でした。

完了検査を受けていない場合、建築確認申請した建物プランからプラン変更している可能性が考えられます。実際に、当時はそういう住宅が少なくなかったのですが、プラン変更により、耐震性に関してマイナス影響を受けている住宅もあるので、注意が必要です。

そこで、完了検査を受けた住宅かどうか確認することをおすすめしますが、その確認が困難なことが少なくありません。その理由は確認するための書類の入手・閲覧ができないためです。

確認したい書類は、新築時の完了検査済証(単に検査済書ともいう)または建築確認台帳記載事項証明などですが、これらを確認できない住宅が多いのです。

完了検査済証

完了検査済証は、その住宅が完成した直後に、建築基準法に基づく完了検査を受けてからすぐに発行されるもので、本来ならば、その住宅の所有者が持っていなければなりません。

しかし、長い年月が経過するうちに紛失する人は非常に多いですし、そもそも新築時に建築業者などから受け取っていない人もいます。そのため、中古住宅として売買するときに、買主から売主に完了検査済証の提示をお願いしても、「持っていません」と回答されることが多いのです。

建築確認台帳記載事項証明など

完了検査済証を売主(所有者)が持っていない場合に、次に確認したいものが、建築確認台帳記載事項証明です。この書類は、自治体で発行してもらうものですが、自治体によって名称が微妙に異なります。「確認台帳記載事項証明書」のように似た名称の場合も多いです。役所の建築指導課などで確認してみるとよいでしょう。

ただし、こちらも築30年ほどの住宅となると、自治体に記録が残っていないこともあるため、入手できないことも少なくありません。

建築確認台帳記載事項証明とは違いますが、建築計画概要書という書類で確認できることもありますので、役所で聞いてみてください。これらの書類の記載内容次第では、過去に検査済証が発行されたかどうか確認できることがあります(書類があっても検査済証の発行有無を確認できないこともあります)。

参考に、東京都と大阪府における築確認台帳記載事項証明の該当ページを紹介しておきます。

耐震診断を検討すべき

築30年くらいの中古住宅であれば、耐震性に関わる大きな建築基準法の改正があった1981年6月1日以降の住宅ですから、この時期以降の基準、いわゆる新耐震基準で建築された住宅であるはずです。よって、それ以前の基準のものよりも耐震性について安心感があると言えます。

しかし、前述したように建築基準法に基づく完了検査を受けていない住宅も少なくない時代であったことや、建物の著しい劣化によって、耐震性が下がることがあることを考えれば、できる限り耐震診断を実施しておきたいところです。

耐震診断できない住宅が多い

耐震診断は、現地調査で得た情報と現地で確認できないことを設計図から確認した情報を基にして行うものです。これらを適切に行わないと、耐震診断の結果の精度が大きく下がってしまい、実施する意味がないことも多いです。

現地調査では、床下や屋根裏(小屋裏)を確認できるかが大事なポイントになりますし、設計図の確認では、耐力壁の位置・仕様を確認できるかが大事なポイントになります。

耐震診断を実施する上で高い確率で障壁になるのが、設計図です。耐力壁の位置・仕様を確認できるものを所有者が持っていないことがあまりに多く、この確認作業をできず、耐震診断の実行をあきらめる人が続出しています。

築30年だけに、耐震診断をしたいけどできないという悩みを抱えたまま、この問題を解決できず、購入判断をしなければならないケースが多いです。その場合は、住宅診断(ホームインスペクション)だけでも実施して、著しい劣化の有無を確認しておきましょう。

購入後、設計図で確認できないことを工務店と協力しながら、耐震性を確認していく方法もあるので、購入後の対応も検討するようにしてください。

なお、鉄骨造や鉄筋コンクリート造(RC造)では、設計図の有無にかかわらず、耐震診断をすることが難しいです。

中古一戸建て住宅診断(ホームインスペクション)
中古住宅のホームインスペクション

築30年の住宅のホームインスペクションで見つかった不具合

築30年くらいの中古住宅で、実際にホームインスペクションをしてみて見つかった不具合の事例を写真付きで紹介しますので、この築年数の建物の状態について参考としてください。

柱の著しい傾き

柱の著しい傾き

インスペクションでは、床および壁を傾斜測定しますが、いくつも著しい傾きが確認されました。写真は柱で9/1000の傾きが確認された箇所です。

床の著しい傾き

床の著しい傾き

この写真は床で9/1000の傾きが確認された箇所です。

基礎の構造クラック

基礎の構造クラック

床下の基礎コンクリートで巾1.5mmと相当に大きなひび割れ(構造クラック)が確認されました。

床下の著しいカビ

床下の著しいカビ

床下で土台や大引きなどの床組みなどで大量のカビが確認されました。

土台の腐朽

床下の土台の腐朽

床下で土台の著しい腐朽が確認されました。他の状況からみて、雨漏りによる被害の可能性も考えられます。

外壁のひび割れ

外壁のひび割れ

外壁の著しいひび割れが確認されました。雨水が浸水し、雨漏りするリスクがあります。

屋根裏の蟻害

屋根裏の蟻害

屋根裏でシロアリ被害が確認されました。蟻害は床下だけではなく、屋根裏で確認されることもあります。

屋根裏の断熱材の設置不良

屋根裏の断熱材の設置不良

屋根裏で広範囲に断熱材がありませんでした。新築当時からか、リフォーム時の問題か不明です。

屋根裏の雨漏り

屋根裏の雨漏り

屋根裏で水染みが見つかりました。染みの位置などの状況から、釘がルーフィングを貫通した箇所から雨漏りした可能性が考えられます。

築30年くらいの建物になると、建物のあらゆる箇所で様々な指摘事例が見つかります。それだけ建物の劣化が進行しているということです。購入判断の参考とするだけではなく、補修すべき箇所を検討するためにもホームインスペクションで建物の状態を診ておくとよいでしょう。

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