ホームインスペクション(住宅診断)は契約後でも有効

住宅を購入する人からホームインスペクション(住宅診断)についてお問い合わせを受けたとき、「もう契約後ですけど、依頼することはできますか?」「依頼する意味はありますか?」「不動産業者が契約前にはできないと言うので、契約後にすべきか?」と質問や相談を頂くことがあります。

多くの購入者は、売買契約の前に依頼すべきだろうと感じてはいるものの、売主への遠慮や不動産業者の抵抗などから、契約前ではなく契約後の依頼を考えている人もいるようです。もちろん、最もお勧めのタイミングは契約前なのですが、誰もがそのおすすめ通りに利用できるとも限らない現状もあります。

住宅購入に際して悩むことがあるホームインスペクションの実施時期(タイミング)や契約後に依頼する意義と注意点について解説するので、参考としてください。

契約後より契約前のタイミングで依頼をおすすめする理由

冒頭にも書いたように、ホームインスペクション(住宅診断)を依頼する最もおすすめのタイミングは、売買契約前です。契約後より契約前の方がよい理由は、何となく予想できるかもしれませんが、明確に把握しておくため、ここで整理して紹介しておきます。

購入判断に活用でき、購入中止も可能

住宅購入時にホームインスペクションを依頼する人の最大の利用目的は、購入判断に役立てることです。大きな買い物をするわけですから、ホームインスペクターという専門家の調査結果やアドバイスを契約前に聞いておきたいと考えるのは自然なことです。

調査結果で、大きな欠陥や想定外の著しい劣化などが見つかったとき、購入を中止できるという状況で利用することは、買主にとっては大きな安心材料となります。インスペクションを利用する人の多くが、その物件をそのまま購入しているものの、一部では大きな問題が見つかるなどして、購入中止の判断をしている人がいるのも事実です。

ホームインスペクションの結果次第で購入できる

既に購入すると決めているけど、一応、ホームインスペクションを入れておきたいという人から相談を受けることもあります。「建物が劣化しているのはわかっていて、調査結果がどのようなものであっても購入するので、契約後の利用でもよいだろう」との考えです。

その考えはよく理解できます。しかし、劣化の程度が想定を大きく上回るものであっても同じ考えなのかどうかは慎重に考えてみてください。たとえば、床下で長期間の漏水をしていたようで土台などの床組みが相当に腐食していて、構造体を大規模に交換または補修・補強しなければならないという場合でも購入するのでしょうか?

ここの判断は、人によって考えが分かれることと思います。インスペクション結果を見てから購入できることは、マイナス材料にはなりませんから、どうしても契約後にしなければならない事情がない限り、契約前の利用を優先するとよいでしょう。

インスペクションをきっかけに冷静に考える時間を取れる

ホームインスペクションを利用するということは、申し込みから調査日まで、調査日から結果が出る前と少し日数がかかります。その間に売れてしまうリスクがあるのですが、逆に少し落ち着いて購入するかどうか検討する時間を取れるということでもあります。

対象物件を見学した後に、不動産業者から焦らされたり、決断を早めるよう迫られたりして、急いで購入判断を下し、購入後に後悔している人は少なくありません。

確かに物件によっては、希少価値や人気の関係で早期の決断が必要な場合もありうるのですが、大きな買い物であれば、考える時間も必要ですね。

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契約後のホームインスペクションでも意義がある

契約後のホームインスペクションの意義

何らかの事情で売買契約前にホームインスペクションを入れることができなかったか、または契約前の時点ではインスペクションのことをあまり知らなかったため契約後に利用するという人に、契約後に依頼する意義を説明します。

早期の不具合・著しい劣化の発見で早期対応を検討できる

ホームインスペクションは、建物の現在の状態を把握することができるわけですが、建物のよくない状態については、できる限り早めに発見して、早めに補修等の対応をとる方が、被害を小さく抑えられ、結果的に建物に対してかける補修等を含むメンテナンス費用を安く抑えられる効果が見込めます。

人の病気も早期発見・早期治療がよいと言われますが、建物も同じです。知らないうちに、悪い症状が拡大していくのは、望ましくないです。

建物の状態を把握してリフォーム時に一緒に補修できる

中古住宅を購入する人なら、購入後すぐにリフォームを予定している人が多いです。契約後でもリフォーム工事をする前やリフォームで解体工事をしたときに、ホームインスペクションを利用することで、見つかった建物の不具合(著しい劣化や新築当時の施工不良など)をリフォームと一緒に補修することができます。

当初予定のリフォームより工事項目が増えるために、リフォーム費用が上がるわけですが、もっと先に被害が大きくなってから補修するよりも割安になることが考えられるので、リフォーム時に一緒に補修するメリットは小さくないです。

売主へ不具合の補修や損害賠償を請求できることがある

売主との契約で保証や契約不適合責任が付いていることが多いため、ホームインスペクションによって見つかった施工不良や著しい劣化の補修を売主へ請求できることがあります。また、その被害状況等によっては、損害賠償請求をできることもあります。保証等の期間内に調査して売主へ請求することが大事ですが、期間が経過することで責任の所在が曖昧になることもありうるため、早めの現地調査と請求をよりおすすめします。

インスペクションを契約後にするときのタイミング

インスペクションを契約後にするときのタイミング

契約後にホームインスペクションを依頼するとき、大きく分けて以下の3つのタイミングがあります。

  1. 売買契約後・引渡し前(残金決済前)に行う
  2. 引渡し後・入居前(引っ越し前)に行う
  3. 入居後(引っ越し後)行う

この3つについて、説明しておきます。

売買契約後・引渡し前(残金決済前)に行う

1つ目は、売買契約後で、且つ引渡し前のタイミングです。一般的には、引渡しと同日に残金決済も行うため、決済前ということになります。

決済前、つまり残金を支払う前にホームインスペクションをして何らかの不具合が見つかった場合、売主と交渉しやすいことがあるので、契約後のインスペクションでは、最もおすすめのタイミングです。しかし、所有移転前であるため、売主の許可や不動産業者の協力(鍵の手配や立会いなど)が必要です。

引渡し後・入居前(引っ越し前)に行う

引渡し後、つまり残金決済を終えて所有権が買主に移転された後で、且つ入居する前のタイミングです。このタイミングは、引渡し後の早い時期になりますので、保証や契約不適合責任の期間内に実施できるときです。このタイミングで実施するため、引渡し日と引っ越し日の間には少なくとも1週間以上の期間をあけておきましょう。

入居後(引っ越し後)行う

引渡し日と引っ越し日の間にゆとりがないときや、入居後にホームインスペクションの存在や必要性を知ったときは、入居後に利用するしかないですね。できれば、入居前の利用をお勧めするものの、仕方ないことですので、このタイミングで利用しても構いません。

家財道具などで確認できない箇所があることは理解しておきましょう。

売買契約後にホームインスペクションを依頼するときの注意点

最後に、売買契約後にホームインスペクションを依頼するならば、買主が注意しておくべきこと、知っておくべきことを紹介します。契約前に対処すべきことが含まれるため、できれば、契約前に読んでおいてほしいものです。

入居前(引っ越し前)に依頼する

「契約後のインスペクションのタイミング」のタイミングのところでも書きましたが、引っ越し後では家財道具などによって確認できなくなる箇所があるため、引っ越し前、家財道具などの荷物を搬入する前に依頼するべきです。

そのためには、引渡し直後の入居は避けるべきですから、契約する時点で引渡し日と引っ越し日のスケジュールを考えておきましょう。引っ越し業者の手配も絡むことですから、早めにゆとりをもったスケジュールを組んでおきたいものです。

売買契約に売主の契約不適合責任を付けてもらう

中古住宅の売買においては、売主が不動産業者ではない場合、売主の契約不適合責任を免除できることになっています。このことは売買契約で取り決めて、契約書に明記されます。

買主としては、契約後にホームインスペクションをするなら、後から大きな問題が見つかったときに売主に補修請求や損害賠償責任を求められる可能性を残しておくため、売主の契約不適合責任が免除とならないか確認すべきです(不動産業者が売主の場合は免除できませんが、業者以外が売主なら免除できる)。

一般的には、築年数が浅い中古住宅では、免除になっておらず、引渡しから3カ月などの期間は契約不適合責任があることが多く、古い住宅ほど免除としていることが多いです。しかし、個々の契約によって条件が異なるため、必ず契約する前に「売主の契約不適合責任はありますか?期間はいつまでですか?」と不動産業者に聞いてください。付いていない(免除です)と回答された場合は、付けてもらうよう交渉しましょう。

ホームインスペクションでは、隠れて見えない箇所もあるので、契約前にインスペクションをできる場合であっても、付けてもらう方がお勧めですが、契約前にできないなら、尚更、付けておいてほしいですね。

※住宅における契約不適合責任とは、売買した住宅が契約内容と合わない場合(契約不適合となった場合)に売主が負う責任で、2020年4月の民法改正により、規定されました。それ以前は、瑕疵担保責任と言われたいたものですが、この改正時に名称だけではなく、内容も変更になっています。

保証期間と保証内容を確認しておく

新築住宅を購入する人や売主が不動産業者である中古住宅を購入する人に、ぜひ確認しておいてほしいことの1つが、売主による保証期間と保証内容です。

新築なら、引渡しより10年間は、構造耐力上の主要な部分と雨水の侵入を防ぐ部分の保証が義務付けられています(2000年4月に施行された住宅の品質確保の促進等に関する法律による)。この点は保証期間も内容もわかりやすのですが、法律で決めていること以外に、売主が独自に保証している場合があるので、その確認をしようということです。

保証を把握していないと、後から請求することもできないからです。保証内容・期間は、書面化されるはずですから、その書面で確認してください。

契約不適合責任・保証(設備保証も)の期間内にインスペクションをすべき

中古住宅における契約不適合責任は、売主が不動産業者以外であれば、前述のとおり引渡しから3カ月以内としていることが多いです。つまり、引渡し後にホームインスペクションをするなら、その期間内に実施するべきです。

また、設備に関しては引渡しから7日間などのように、短期間の保証となっていることが多いです(特に中古住宅の場合)。この期間も確認しておき、引渡し直後に水道等を開栓して、使用テストすることをお勧めします。ホームインスペクションも引渡し後すぐに依頼しておく方がよいですね。

つまり、契約する時点で、引渡し日・ホームインスペクションの調査日・引っ越し日まで考えて、スケジュールを考えておくことをお勧めします。

契約前後から引渡し・引っ越しまで忙しくて大変だと思いますが、買主の頑張りどころです。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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