住宅の床・壁の傾きの原因と建物調査

居住している自宅の床や壁が傾いているのではないかと心配している人は多いです。住宅診断(ホームインスペクション)の問合せをアネストにする皆さんからも、よく「床(または壁)が傾いているように思うので、調べてほしい」との声が聞かれます。

そこで、少しでも家の床や壁の傾きついて心配している人に役立つように、住宅の傾きのよくある原因や対応方法、さらには専門家に調査依頼すべきかどうかの判断の仕方を解説します。

対象となる住宅は、自らが居住している自宅に限らず、購入予定の中古住宅や新築住宅も含まれます。実は、新築住宅でも建築中や完成直後に傾きについて相談を受けることは多く、実際に早急に補修等の対応を要する事例はいくつもあります。

住宅の床や壁の傾きは危険な兆候か?

自宅などで床や壁の傾きを感じたとき、多くの人が不安になるものですが、実際にその症状や原因によっては深刻な問題であるケースはよくあります。また、それほど大した問題ではないので、しばらく様子を見ていて大きな変化がないなら大丈夫だというケースも多いです。

但し、傾きは建物に関する根本的で且つ重要な問題・瑕疵と関係することがあるのは事実ですから、全てが重大な瑕疵と関係しているわけではないものの、危険な兆候の可能性があるということをよく認識しておく必要があります。

傾きやそれに関連するような症状が確認された場合には、できる限り早めに調査して、危険なものかどうか判断することが求められます。そして、直ちに補修・補強すべきかどうかは、その原因にもよることですから、原因の推測も急いだほうがよいでしょう。

床・壁に傾きがある原因の事例

住宅の床や壁の傾きには、いくつもの原因がありますが、まずはどういったことが原因となって傾きが生じるのか把握しておいてください。以下が、傾きの原因となりうることです。

  1. 新築時やリフォーム時の工事の精度が低く、工事完了時点で傾いていた
  2. 不同沈下(地盤沈下)により建物が傾いた
  3. プラン上(設計上)の問題で建物が傾いた
  4. 強い地震で建物の一部または全部に被害を受けた
  5. 構造部分や下地材の劣化・腐食で傾いた
  6. 上の項目の複合的な要因で傾いた

上のリストだけではわかりづらいので、それぞれについて少し解説しておきます。

新築時やリフォーム時の工事の精度が低く、工事完了時点で傾いていた

築年数が浅い住宅において、よくあるケースの1つが、新築工事の施工品質が低くて床や壁が傾いているという事例です。こういった施工ミスでも、構造躯体に関するものと下地材に関するものに分けることができます。

建築中の施工ミスと傾き

構造躯体の施工ミスのケース

たとえば、柱の工事の精度が低くて傾いていたために、その上に施工する壁下地材(ボード)も傾いて取り付けられ、さらにその上に貼るクロスも傾いているというケースです。

床でも同じように、大引きや根太などの施工が悪くて傾いていて、床下地材やフローリングが傾いてしまうということがあります。

また、築年数が古い住宅であっても、リフォーム工事の施工精度が低く、同じように傾きが出てしまうことがあります。

リフォーム業者が、そのリフォーム工事に着手する前に床や壁の傾きを確認した場合には、契約や工事の前に傾きがあることを報告してくるものですが、何も言わずに(または気づかずに)工事を進めてしまって完成後にトラブルになっていることもあります。

下地材の施工ミスのケース

柱や梁、大引き、根太などの工事に問題がなくても、壁や床の下地材の施工が粗くて結果的に傾きが生じることもあります。雑な工事をすることで、下地材と下地材の間に微妙は隙間ができたり、段差ができたりしていることもあります。

不同沈下(地盤沈下)により建物が傾いた

あまり遭遇したくない問題(傾きの原因)の1つが、不同沈下・地盤沈下です。その敷地の地盤強度や建物に対して、適切な地盤改良や地盤補強工事をしていないときに起こりうる問題で、症状がひどい場合には問題解決に長い時間と高いコストがかかることも少なくありません。

建物全体が同じほうほう方向に傾斜することもあれば、位置によって沈み方に相違が生じてばらばらに沈んでいることもあります。建物全体に見つかった症状などから、こういったことまで推測しつつ対応を検討しなければなりません。

プラン上の問題で傾き

プラン上(設計上)の問題で建物が傾いた

建物の施工が非常に丁寧であり、地盤にも何ら問題がないにも関わらず、大きな傾きが生じるケースもあります。そういった場合は、その住宅のプラン上の問題、つまり設計に問題があったということが考えられます。

これまでに、アネストの調査でよく確認されている事例でいえば、梁のたわみによる床の傾きです。たとえば、2階建て住宅で2階の床が傾いていた原因が、2階床下(1階天井)にある梁が大きく撓んでいることだと判断されたケースがあります。

梁のたわみの原因として、施工ミス(構造金物で留めていない等)ということもありうるのですが、そのようなミスはなく、梁を支える壁が不足しているという問題があったのです。

新築するときには、建築確認申請をしており、さらに完了検査を受けて検査済証まで発行されているのだから、設計上の問題がないと考えている人も多いですが、それは単に法規制をクリアしているといだけであって、建物に問題が生じるかどうかは別の話です。

施工ミスのほかに、プラン上の問題でも傾きが起こりうることは知っておきましょう。

強い地震で建物の一部または全部に被害を受けた

日本が地震国なのは言うまでもありませんが、強い地震の被害を受けることで傾きを生じることはあります。法規制をクリアしていても、強い地震の影響が全く生じないというわけではありませんから、地震による影響は常に考えなければなりません。

但し、それほど強い地震でもないにも関わらず、傾きなどの症状が発生することもよくあることです。それは、地震の揺れそのものが問題とは限らず、他に問題(施工上の問題や地盤の問題、プラン上の問題)があったところへ揺れが生じたことで症状が現れやすくなったということが考えられます。

構造部分や下地材の劣化・腐食で傾いた

これは中古住宅に限られますが、柱・土台・大引き・筋交い・梁などの基本構造分で著しい劣化や腐食が進んでしまったときに、傾きが生じることもあります。また、壁や床の下地材の劣化・腐食が進んだために傾くこともあります。

下地材の劣化・腐食ならば、部分的な補修対応で解決できるのですが、基本構造部分の問題となれば、解体や補修・補強の範囲が大きくなったり、工事の難易度があがったりして、対応が少し難しくなることもあります。

また、構造部分などの劣化・腐食ということは、古い中古住宅に限られる問題だと考えがちですが、実は築浅の住宅でも起こりうることです。これまでの調査事例からは、雨漏りや給排水管などからの漏水が新築してすぐに発生し、これにより部材が早い時期に劣化・腐食していたということが何度もありました。

新築直後でもこういったことはありうることですから、油断せずに構造部分や下地材の劣化・腐食の可能性も考えておくべきです。

上の項目の複合的な要因で傾いた

ここまでに、新築やリフォーム工事の施工ミスや地盤沈下、プラン上の問題などの傾き原因をあげてきましたが、単純にこのうち1つのみが原因になったとは限りません。複数の原因が重なって問題が発生することもあるからです。

傾きの許容範囲と判断

床や壁に傾きがあったとき、その全てが直ちに補修等の対応を要する問題とは限りません。しばらくの期間は様子を見るべき(経過観察すべき)ということもあれば、何ら気にしなくてもよいこともあります。しかし、判断は一般の人には難しいものがあります。

1つの目安として、傾きの大きさを参考にするという方法があります。その目安としては、傾きの大きさが「3/1000」「6/1000」といった基準を超えているかどうかです。

傾きの許容範囲

3/1000を超えると要注意

傾きをどう判断するかというところでよく語られるのが、3/1000を超える傾きかどうかです。この数値を超えておれば注意しなければなりません。これは、局所的な範囲での傾斜を測定して判断するのではなく、ある程度のスパン(間隔)で計測して判断すべきものです。

床であれば、3mの長さで傾斜測定し、壁(または柱)であれば2mの高さで測定します。

しかし、居住中の住宅では3mの長さを計測できる箇所が少ないこともあるので、そのときは3mにこだわらずにできるだけ長い距離で計測するようにすればよいです。壁も、家具や棚、荷物があるために計測できるところがなければ、できるだけ高い距離で計測しましょう。

6/1000を超えると直ちに対応を検討した方がよい

3/1000を超えると注意を要するわけですが、6/1000を超えると状況次第では直ちに補修などの対応を検討すべき場合が多いです。

6/1000の傾斜といえば、かなり大きなものですから、普通なら体感でも傾きをはっきりと感じるレベルです(それだけ傾いている床に人が立てばわかることが多い)。但し、それでも局所的な傾きならば、大きな問題でないこともありますから、冷静に且つ迅速に建物を詳細に調査して対応を検討するようにしましょう。

ちなみに、3/1000の傾きとは、1000mm(=1m)の長さで3mmの傾きです。1メートルで3mmですから、体感ではなかなか確認できないでしょう。6/1000の傾きとは、1000mm(=1m)の長さで6mmの傾きです。

自分で計測する場合は、市販の安価な水準器(水平器)を使用することで、ある程度の傾きの傾向はわかるでしょう。5,000円以下のものでも十分に参考にはなります。

水平器

専門家に調査依頼すべきかどうかの判断の仕方

床や壁の傾きがあるとき、もしくは心配だというとき、その調査を専門家に依頼するかどうかの判断の仕方について紹介します。以下の項目に該当するものがあるかどうかを参考にするとよいです。

  1. 体感で床の傾きを感じる
  2. 家具と壁の隙間が大きい
  3. 壁や天井にひび割れがある
  4. 建具枠と壁の隙間が大きい
  5. 扉が自動的に開く・閉じる
  6. 基礎にひび割れがある

上のうち、複数の症状があるならば早急に対応すべきことですが、わかりづらいかもしれないので、それぞれについて補足説明しておきます。

専門家へ建物調査依頼

体感で床の傾きを感じる

体感で傾きを感じるくらいならば、決して小さくない症状です。どの部屋の傾きが一番大きく感じるか確認してみましょう。「傾きがないか?」という意識をもって確認してみるとよいでしょう。ただ、壁の傾きは体感しづらいのです。

家具と壁の隙間が大きい

壁に傾きを確認する簡易的な方法として、家具と壁の隙間を確認することです。たとえば、床に近い位置(低い位置)では家具と壁がぴったりくっついているのに、床から離れた位置(高い位置)では離れている場合は、壁の傾きの可能性があります(家具の問題かもしれません)。

壁や天井にひび割れがある

壁や天井にいくつかひび割れが確認された場合は、注意した方がよいこともあります。リビングや居室だけではなく、廊下や階段、玄関ホール、洗面室などでも丁寧に目視で観察してください。見つかったひび割れが、直線的なものか、縦方向か水平方向かも確認しておきましょう。

傾きとひび割れには、密接な関係があることも多いので、傾きが怪しいときにはひび割れの確認は必須です。

建具枠と壁の隙間が大きい

住宅には、扉やサッシがたくさんありますが、それらの枠の周りに大きな隙間があるときにも注意が必要です。扉やサッシなどは壁に空いている穴と同じようなものですから、その周囲には問題が生じやすいと言えます。そのため、建物の症状を見るときにはこういった個所(開口部という)を注意して見ておくとよいでしょう。

開口部の周りは、建具枠との隙間だけではなく、ひび割れも生じやすいです。

扉が自動的に開く・閉じる

アネストへ問合せされるお客様から、「扉が自動ドアみたいに開いてしまう」または「自動ドアみたいに閉じてしまう」と聞くことがあります。これも建物の傾きと関係していることがありますから、注意すべき症状です。但し、丁番が緩んでいただけということもありますから、まずは扉の根元の金具の緩み等を確認してみましょう。そこに問題がなければ傾きを疑った方がよいかもしれません。

基礎にひび割れがある

基礎のひび割れ

住宅の基礎が大事な部位であることは誰でもわかっていると思いますが、その基礎にひび割れがある場合も注意を要することが多いです。軽微なヘアークラックなら気にすることはないのですが、構造クラックであれば注意が必要です。

建物の外部側では、基礎の表面に施工されているモルタルのために、基礎コンクリートがどうなっているのかわかりづらいです。そこで、本当に確認したいのは床下側の基礎の状況です。床下側は、外部と違って表面にモルタルを施工していないからです。

但し、自分で床下に潜って基礎を確認すると怪我をしたり、配管等を傷めたりするリスクがあるので、慣れていない人にはお奨めしません。一度も専門家に診てもらっていないならば、住宅の点検を調査依頼するのもよいでしょう。

ここまでに挙げた6つの症状のうち、2つ以上に該当するようならば、一度調査してもらって建物の状態を確認しておいた方がよいでしょう。その結果次第では、傾きなどの原因調査を追加依頼しなければならないこともありうるでしょう。

アネストの住宅インスペクション

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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