怪しい中古住宅の事例

中古住宅を購入するときには、最初に気になる物件を内見しますね。現地を内見するとき、間取りや部屋の大きさ、動線、建物の劣化状態などを確認していると思いますが、それだけではなく、「これって、ちょっと怪しくないかなぁ」ということにも気づいてほしいところです。

建物の劣化状態や不具合については、自分で判断するのは難しいので、売買契約を締結する前に専門家にホームインスペクション(住宅診断)を依頼する方法が有効で、今では多くの人が利用しています。

しかし、専門家によるホームインスペクション(住宅診断)は、確認できる範囲で劣化等の症状を確認し報告しますが、そういった症状ではない点まで確認や報告してくれるものではありません。そういった点については、できれば自分で気づけるとよいですね。

その「そういった点」というのは、「何か怪しくないかな」と感じる点です。結果的に何ら問題ないことも十分にありえることですが、まずは気づくことが必要です。ここでは、実際にあった「これって、ちょっと怪しくないかな」「これはおかしくない?」という事例を紹介するので参考にしてください。

売主は重要な事実を告知しなくてはならない

最初に前提として知っておきたいことがあります。

それは、売主には「その住宅に関して重要な事実については買主に告知しなければならない」ということです。

売主は重要な事実を告知しなくてはならない

たとえば、以下のようなことは告知すべきことです。

  • シロアリ被害がある
  • 雨漏りしている
  • 漏水して柱の一部が著しく腐食している

といった物理的な瑕疵です。
そして、

  • 自殺
  • 殺人
  • 浸水

といった心理的瑕疵や災害に関することもそうです。他にも告知すべきことはありますが、この告知義務を怠った場合には、買主が売主へ補修の請求や損害賠償請求などをすることができます。

しかし、売主はこういったことを買主に知られると売却する上で不利になると考えて、知っているのに知らないふりをするケースもあります。もちろん、不動産会社(仲介業者)にも重要なことを説明しなければなりませんが、売主しか知りえない事実については不動産会社が説明できないこともありますので、売主の告知は重要です。

※これは、一部の人のことであり、一般的には告知してもらえます。なぜなら前述のように損害賠償等を請求されるリスクがあるからです。また、基本的な倫理観に基づいて行動判断する人が多いです。

売主による告知は、重要事項説明に際して書面でなされますが、その時に初めて聞いても「先に言ってほしい」となりますよね。実際の取引では、多くの場合、仲介する不動産会社から事前に説明を受けられます。

慎重に対応すべき中古住宅の内見時の事例

中古住宅の内見時の事例

前述したように、一部の売主は知っていても買主や不動産会社へ告知しないことがあるので、厄介です。購入後に買主が気付いても、それを売主が知っていたのに黙っていたと証明することは困難なことが多いです(本当に知らなかったこともあるわけです)。

こういったリスクを完全に排除することは難しいですが、これまでの事例を紹介するので、1つの参考としてください。

リフォームで点検口を無くしている

中古住宅を売買する際、その住宅の新築当時の設計図を売主が保有している場合は、新しい所有者(=買主)へ引き継がれるものです。その設計図には、床下点検口の位置が明記されているにも関わらず、実際の住宅には点検口がないことがあります(稀なケースです)。

新築当時に計画していた点検口を設置し忘れたという可能性もあるのですが、所有者が床をリフォームした際に点検口を無くしてしまっていることもあります。

リフォーム業者の判断ミスにより、大事な点検口を無くしていて、それに所有者が気付いていない(もしくは重要視していない)ということもあるのですが、床下の不都合なことを隠すためにあえて点検口を無くしたのではないかと疑われることありました。

買主が、所有権移転後に床下点検口を設けて床下を確認したところ、明らかなシロアリ被害跡が見つかり、それを補修したと思われる状況を確認したために、疑われるケースです。

リフォーム等で点検口を無くした全て住宅が危ないというわけではなく、「何か怪しくないか?」と慎重になりたいヒントです。

※参照:リノベーション済み中古住宅を購入するときの注意点

天井・壁の一部のみ壁紙(クロス)張替えている

天井と壁の壁紙の確認

多くの人が自宅をリフォームする際は、予算のことと同時に効率的な対応を考えるものです。そういう意味では、壁紙(クロス)の張替えをするならば、壁と天井は同時にすることが多いです。また、同時期に全ての部屋ですることも多いです。

※同時に全ての部屋の内装リフォームをすると、その内容や工程次第では一時的に仮住まいへの転居が必要なこともあるので、少し時期をずらしながらリフォームすることは多い。

たとえば、ある部屋の天井の壁紙のみを張替えている場合、「なぜ天井だけを張り替えたのか?」と怪しんでみるべきかもしれません。不動産会社を介して売主に理由を尋ねてみるとよいでしょう。逆に壁だけを張り替えている場合もそうです。

また、同じ部屋の壁や天井の一部のみを張り替えていた事例もあるので、注意しましょう。

壁や天井には雨漏り跡が出ていることがありますが、そういった症状が壁紙の張替えでわからなくなっていることがあるのです。

不自然な位置に家具がある

実際のホームインスペクション(住宅診断)の現場であった事例ですが、居室に置いてある棚が部屋の角から50cmほど離れた位置に配置されていました。角には何も家具などが置かれておらず、なぜか棚が隅に置いていないのです。

売主が引越しのために徐々に荷物を移動させているかもしれません(角にあったものを先に転居先へ移動したり、廃棄したりする可能性はある)。しかし、不自然ではありますよね。ホームインスペクションは、家具等がある場合、それを移動させてまで隠れている箇所を調査するわけではないため、確認できません。

このときは、ホームインスペクションの依頼者(=購入検討者)が不動産会社に話して売主へお願いし、棚を移動してもらうことになったのですが、雨漏り跡が見つかりました(売主は知らなかったと言っていました)。

また、別の事例では、なぜか窓の前に大きな本棚が置かれていることがありました。窓を使えなくしてまで本棚を置くのは珍しいです。ただ、その室内は確かに物置のように使われていて荷物が多く、本棚の位置がありえないとまでは言えない状況でした。

そして購入後、売主が退去した後に部屋を見てみると、窓の上に雨漏り跡があったのです(これも売主は知らなかったと言っていました)。

見せてもらえない部屋がある

中古住宅の内見に行くと、売主側の事情により、どうしてもきちんと見せてもらえない部屋があることがあります。たとえば、「高齢者が寝たきりで」「荷物部屋として利用しているあまり見られたくない」などといった理由があがることがあります。

その理由次第では、やむを得ないと思われることもあり判断が難しいところですが、結果的に、その部屋から雨漏りや著しい腐食が見つかることがあるので、悩ましいところです。

ホームインスペクション(住宅診断)で屋根裏の調査をした際に、その部屋の真上で少なくないであろう雨量の雨漏り跡が見つかり、その状況からその部屋の天井などにも雨染みがある可能性が考えられました。その時の買主は屋根裏の調査結果から雨漏りについては把握した上で購入したので特に問題にはしませんでしたが、引渡し後に確認するとやはり天井や壁に雨染みがありました。

もし、このときに屋根裏の調査でもその部屋の真上を確認できない状況であれば(形状等の関係で屋根裏の一部を確認できないことがある)、買主は知らずに購入することになり、引渡し後にショックを受けることになったでしょう。

2度目、3度目の内見を断られる

中古住宅で売主が居住している物件を内見したことがある人ならわかると思いますが、居住中の住宅は、購入検討者が遠慮がちになり、あまり時間をかけて内見するのは、しづらいものです。

そこで、購入の決断を下す前に、もう一度、見ておきたいと考えるのは何もおかしなことではありませんし、これを遠慮する必要はありません。不動産会社を介して丁寧にお願いして、2度目、場合によっては3度目の内見をしてください。

しかし、売主から2度目、3度目の内見を断られるケースがありました。複数回の内見は、真剣に購入を検討しているという証でもありますから、本来なら、売主が断ることはありません(1度目に余程、失礼なことでもしていない限り)。

「何度も見られると不都合なことに気づかれるかもしれない」とでも心配しているのだろうか?と勘ぐってしまいますね。

この事例のときは、入居してから各部屋で傾きを感じるようになり、心配になった買主から依頼を受けて調査したところ、床も壁も箇所で小さくない傾斜が確認されました。売主がこれを隠したかったのかどうかは定かではありません。

※参照:中古住宅の購入・引渡しの流れと注意点

中古一戸建て住宅診断(ホームインスペクション)
中古住宅のホームインスペクション

売買契約書で契約不適合責任を確認すべき

契約書で契約不適合責任を確認

中古住宅の売買に際して確認すべき取引条件の1つが、契約不適合責任の有無です。

契約不適合責任とは、以前は瑕疵担保責任と呼ばれていたもので、2020年の民法改正により名称と内容が変更になったものです。中古住宅の売買においては、売主の契約不適合責任を免責、つまり売主が責任を負わないことを条件とするケースがあります。

※参照:住宅購入と契約不適合責任(契約内容に適合しないとき)

免責になっていては、購入後に気づいた瑕疵(たとえば、雨漏りなど)について買主から売主へ補修等の請求ができませんので、買主としては契約不適合責任を「有」とする取引が望ましいです。「慎重に対応すべき中古住宅の内見時の事例」に該当するようなことや、その他の怪しいと感じることがあるなら、契約不適合責任を「有」とするよう交渉しておくのも1つの方法です。

そして、引渡し後、速やかに現地の状況を確認したり、専門家にホームインスペクション(住宅診断)を依頼して見てもらったりするのも有効な方法です。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。