住宅の建築中に工務店が倒産するリスク

新築住宅を建築中に工務店(建設会社)が倒産することがありますが、実際にそのような状況に直面した施主や買主は、その住宅を完成させることができるのか、建築資金の計画がどうなるのか、そもそも倒産する業者が工事した部分は安心できるのかといった不安を頂くものです。

住宅の新築工事を発注する一般消費者としては、倒産しない工務店へ発注することが理想ですが、事前にそれを把握することは簡単ではないですね。工務店の方から、自社の経営状態が悪化しているとは教えてくれないものですし、勤めている社員も倒産するほど危険な状態とは思っていないこともあります。

ここでは、日本国内でどの程度の工務店が倒産しているか、そのデータを示してリスクの大きさを紹介した上で、倒産する主な理由、倒産してしまったときの施主または買主のリスクを紹介します。そして、最後に倒産したときに備える対応方法を解説します。

住宅の建築中に工務店(建築会社)が倒産することがある

会社員をしていると、普段は周りで会社が倒産したという話を聞くことが少ない人も多いですが、会社の規模・業種によっては、取引先などの倒産を経験した人もいるでしょう。住宅・建設業界では、その倒産件数の多さが話題になることは多く、業界を知っている人なら、倒産に備えておくべきだと考える人は少なくないでしょう。

工務店の倒産件数

具体的に、建設業界における倒産件数がどれくらいあるか確認するには、帝国データバンクが公表する全国企業倒産集計がよい参考になります。

この公表データによれば、2022年と2023年の建設業の倒産件数は以下のとおりです。

倒産件数
2022年1,204件
2023年1,671件
建設業の倒産件数

相当な数の建設業者が倒産していることがわかりますね。

2023年の倒産件数のうち、業歴が10年未満の会社が495件と、全体の約30%を占めています。

帝国データバンクのHPには、「コロナ禍で政策的に抑制されていた倒産の揺り戻しと見られる」と記載されていますが、コロナ渦中に実施された補助金のおかげで倒産せずに延命した会社が結局は倒産したという状況があり、その影響で増えた可能性を指摘しています。

引用元:https://www.tdb.co.jp/tosan/syukei/23nen.html

建売住宅では、その物件の売主=工務店とは限りません。売主である不動産会社が自社で施工しているケースや、発注した先の工務店(つまり不動産会社の下請け業者)が倒産しているケースは、上のデータに含まれていますが、自社で施工していない不動産会社が倒産した場合は、これには含まれていません。

この倒産件数の対象は、全てが住宅の建築を手掛けている工務店というわけではないですが、倒産リスクが小さくなく、他人事ではないことを知るには十分なデータだと言えるでしょう。

工務店が倒産する理由

次に工務店がなぜ倒産してしまうのか、その主な理由を紹介します。仕事が無くて倒産するだけではない事情が見えてきます。

資金繰りの悪化(完成までに入金されない)

規模の小さな工務店では、会社の経営計画をきちんと立てておらず、まともな経営管理がなされていないことがよくあります。会計面においても、今の時代でもどんぶり勘定でお金の管理ができていないということがあり、経営環境の変化への対応ができないことが少なくありません。

建築材料や住宅設備などの納品遅れや人材不足など様々な理由よって、工事が遅れることがありますが、その工事遅延の影響によってあてにしていた施主や元請けからの入金が遅れたり、施工ミスが頻発することで引渡しと残金支払(建築工事費の回収)が大幅に遅れたりして、資金繰りが悪化するケースに対応できないといったことです。

仕事があるのに人手不足で安定的に受注できない

今、建設業界では人手不足が深刻化していて、多くの会社が困っています。受注できそうな案件があるのに、対応できる人材がいないために、売り上げを挙げられず、結果的に倒産するケースが増えているのです。

安定した経営をするためにも、安定した受注とそれに対応する人材が必要ですが、その人材不足が大きな問題になっています。

建築資材費の高騰と価格転嫁の交渉難

この数年間における住宅を含めた建築資材や住宅設備機器の価格の高騰は本当に大きく、消費者に提供される住宅価格も高くなってきました。

それでも、価格転嫁できるうちはよかったのですが、あまりに高くなると消費者が購入できなくなります。つまり、工務店からすれば、そのまま価格転嫁すると仕事が入らなくなってきた状態です。仕入れ価格や人件費が上がっているなかで、消費者や元請けに価格転嫁できなければ、適切な経営が成り立たなくなってきます。

そうやって倒産につながっているのです。

連鎖倒産

建設業界では、多重下請け構造が問題だとして取り上げられることがありますが、このことは、連鎖倒産も生みやすくしています。

元請け業者が倒産することで、下請け業者に代金が支払われず、下請け業者も連鎖倒産するというものです。最初に倒産した会社と負債の規模次第では、多くの連鎖倒産を生むこともあります。

ここで挙げた倒産理由のなかでも、人材不足と建築資材費の高騰は、影響が大きいと言われています。

建築中の住宅検査
建築中の住宅検査で施工ミスを回避

新築住宅が完成する前に工務店が倒産したときのリスク

完成前に工務店が倒産したときのリスク

注文した新築住宅が完成する前に工務店が倒産してしまったとき、その施主にはどのようなリスクがあるのか想像できますか?単純に、その続きは別の業者に依頼すればよいというわけにはいかないのです。

住宅が完成しないまま放置される

新築工事を発注した先の工務店が倒産すると、当然、工事が止まってしまいます。その工事には、いくつもの下請け業者が手配されていたはずですが、その下請け業者にしてみれば、元請け業者から代金が払われるかどうかもわからない状況で、工事を続けてくれることはありません。多くの場合、その下請け業者も被害者です。

結果的に、住宅が完成することもなく、そのまま放置されてしまうことがあるのです。

放置中の建物の劣化等の悪影響

工事がストップしたときの工事の進捗や養生などの状態にもよりますが、放置されたまま長期化した場合、雨などの影響で実施済みの工事部分について、劣化が進行することがあるので、注意したいところです。例えば、木部の腐食や著しい反り、金属部分の著しい錆などの問題です。

前払いした工事請負代金が返金されない可能性

多くの住宅の建築工事請負契約において、契約の締結時に手付金を支払っています。つまり、前払いする工事代金があるはずです。

工務店が倒産した場合、実施済み工事の代金を差し引いた上で返金するといった対応が考えられますが、資金繰りが悪化して倒産した場合、本当に全額が返金されるか不透明です。また、返金されたとしても、実施済みの工事の代金をどのように算定するのか問題なることもありますし、そもそも施主としては実施済みとはいえ、差し引きすることに納得できないケースもあるでしょう。

建築工事を引き継ぐ工務店探しが難しい

建築途中の状態のままで放置されていては、いつまでも新居に引っ越すことができませんし、何とかして解決するよう動き出す必要があります。その1つの動きとして、別の工務店にその工事の続きを引き受けてもらうということを考える可能性は高いです。

既に完了した部分以外の工事だけを引き継いでほしいわけですが、引き継いでくれる工務店を探すのは簡単ではありません。

引き継ぐ側の工務店としては、倒産するような会社が行った工事が適切かわからないのに、建てた後の責任を被るようなことになるのは怖いと考えるからです。これは、当然の考え方だと言えるでしょう。過去の事例でも、何社も相談したけど、どこも引き受けてくれないと言っていた施主もいました。

完成の大幅な遅延

前述したように、倒産後しばらく放置されることや、引き継ぐ会社がなかなか見つからないなどの理由で、工事の再開目途がたたず、完成が大幅に遅延することが考えられます。また、前払いした工事費(手付金や中間金など)が返金されない限り、施主側の資金計画の都合上、別の引き継ぎ業者に発注できないものの、倒産業者の法的整理に多くの時間を要することもあります。

つまり、発注した工務店の倒産に直面すると、基本的には大幅な完成の遅延を覚悟しなければなりません。

倒産業者が施工した部分の欠陥・施工ミスが心配

倒産した工務店の施工が適切か不明なために、別の工務店が簡単には工事を引き継いでくれないと紹介しましたが、これは、施主の立場でも同じですね。倒産業者の全てが酷い施工をしているわけではないのですが、倒産前だから手抜き工事をしていたという事例があるのも事実です。

建物の安全性を確認できなければ、欠陥工事になっていないかと不安になるのも仕方ないことです。

一級建築士

倒産するとお金、スケジュール、安全性と問題が山積みとなり、精神的に堪えるという問題が結果的に一番大きくなる人もいます。

工務店が倒産するときへの対策・備え方

工務店の倒産への対策

最後に、住宅の建築中に工務店が倒産してしまったときのことを事前に考えておき、それに備えておく方法(対策)を紹介します。

この対策をとることで、リスクを完全に排除できるという完ぺきな方法はないですが、リスクや被害を軽減することはできるので、工務店と建築工事請負契約を結ぶ前に確認しておきましょう。

手付金・中間金を少額にする

リスクのところで、前払いした工事代金が返金されない可能性を挙げました。このリスクを軽減するために取るべき対策は、そもそも前払いする金銭をできる限り少なめにしておくということです。

手付金

前払いする金銭とは、建築工事請負契約の締結と同時に支払う手付金です。これは、施主と工務店の話し合いによって取り決めるものですが、工事請負代金の5~20%くらいの範囲とすることが多いです。仮に、2,500万円の工事請負代金であれば、125万~500万円ということになります。

これを可能ならば、10%以下に抑えておくとリスクを低く設定できます。

中間金

また、工事の進捗具合に合わせて中間金を支払うということもあります。たとえば、上棟したタイミングで工事請負代金の30%を追加で支払うといった具合です。

工務店によっては、中間金を請求しないことも多く、手付金以外は完成後の最終決済時に支払いとなることが増えています。施主の立場としては、このように中間金を無しとする方がリスクを低くすることができます。

契約する前に、中間金が不要であるか、手付金がいくらであるか確認しておくことは、よい対策となるでしょう。

住宅完成保証制度の利用

工務店が倒産したときの金銭的なリスクに備える方法の1つとして、住宅完成保証制度を利用している工務店に発注するという方法があります。

住宅完成保証制度とは、工事途中に工務店が倒産した場合に、前払いした金銭の損失や追加で必要となる工事費を保証してくれるもので、工務店が申請するものです。施主(工事の発注者)が申請するのではなく、工務店がするので、その対応をしている工務店へ工事を発注する必要があります。

この制度では、残りの工事を引き継ぐ工務店のあっせんもしてくれるので、メリットは大きいと言えます。

この住宅完成保証制度は、住宅保証機構が行っていますので、詳しくはそのHPをご確認ください。

第三者検査で施工品質の確保と建築途中の記録保存

倒産した工務店の施工品質のリスク、つまり欠陥工事をしていないかという不安について前述しましたが、その対策のため、第三者のホームインスペクションを利用する方法があります。具体的には、基礎工事の着工段階から、完成までの間に、インスペクション業者に委託した回数・タイミングで住宅検査してもらうというものです。

これは、欠陥工事を未然に防ぐことを目的としているため、施工品質の確保という意味で役立つものです。

また、検査時には、施工状態を写真撮影して報告書に掲載するため、結果的に現場の状況の記録にもなりえます。ただし、記録することが目的ではないため、全ての箇所を確認できるわけではないですので、そこは誤解しないでおきましょう。

こういった第三者のホームインスペクション業者による検査結果(報告書)があることにより、依頼者の安心感もありますが、工事を引き継ぐ工務店にとっても参考になり、安心感につながることが期待できます。結果的に、引き継ぎ業者を見つけやすくなる効果もあります。

一級建築士

アネストの建築中の住宅検査サービス「住宅あんしん工程検査」を依頼される方は多いですが、依頼者の安心感だけではなく、もしものときに役立てる可能性があるということです。

対策なしで倒産した時の対処法

着工する前に、工務店が倒産するリスクについて考えておらず、工事が始まってからしばらくして、倒産してしまったという人もいるでしょう。実際には、このパターンの方が多いです。

それでは、何も対策を考えていない状況下で工務店が倒産したときの対処方法について紹介します。これは、事前に対策ほどに効果的とは言えないですが、できる限りの対処が必要だという考えで紹介するものです。

対策なしで倒産した時の対処法

建物の現状でホームインスペクションを利用する

倒産したときのリスクとして、倒産業者が施工した部分の欠陥・施工ミスの可能性と、そういったことの影響により、工事を引き継ぐ工務店探しが難しいことを挙げましたが、この点を少しでも解消するため、建物の現状を第三者のホームインスペクションによって確認してもらい、その結果を報告書としてまとめてもらうとよいでしょう。

ホームインスペクションとは、新築住宅においては建物の施工品質(不具合等)を検査するもので、中古住宅においては劣化状態を診断するものです。ここでは、新築なので、現況において施工品質をチェックしてもらうことになります。

施工ミスなどの問題が見つかった場合、施主と工事を引き継ぐ工務店の間でその責任・保証問題や補修方法について話し合いをしておくことになります。

養生

元の工務店が倒産した際、建物のことを考えて養生してくれたならよいですが、何もせずにそのまま放置されてしまうこともあります。その場合、例えば長期間の雨などで建築資材の腐朽・カビ、さらには材料の歪みといった被害が出ることもありえるため、養生シートなどで保護する必要があります。

早めに引き継ぐ工務店を探して養生してもらうか、引き継ぎが決まっていなくても養生だけを依頼することも考えましょう。長期間の放置で新築なのに建物が劣化してしまうリスクには対処しておきたいですね。

支払済みの金銭の返金請求

常に必要とは言えませんが、支払済みの金銭について返金請求すべき場合があります。

支払済みの金銭に対して、現場の工事の進捗が明らかに先に進んでいる場合、または逆に工事がそこまで進んでいない場合などの状況によって、対応がわかれるところです。この点は、法的な判断も必要な部分ですので、法テラスなどで弁護士に法律相談することを検討しましょう。

法テラスとは、国が設立した法的トラブル解決の総合案内所で、無償で法律の専門家に相談することができます。ここでの相談だけで解決できるとは限りませんが、方針決定などの参考なることが期待できます。

以上、工務店が倒産することが多くて、住宅を新築する人なら誰にでもリスクがあることと、そのリスクの内容、施主がとるべきと考えられる対策案や倒産後の対処法を解説しました。

これにより、全てのリスクを避けられるわけではないですが、マイホームの建築とは、大きな資金を投じるものであり、人生に与える影響が大きなイベントですから、少しでもリスク抑制に役立ててもらえればと思います。

もし、既に居住している自宅を建築した工務店が後から倒産したのであれば、「売主や建築会社が倒産した住宅の建物点検とメンテナンス」を参考にしてください。

建築中の住宅検査
建築中の住宅検査で施工ミスを回避

執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。