住宅の工事監理者がいない

住宅・建築業界でしばしば問題となっている住宅の工事現場における工事監理と工事監理者について取り上げます。

住宅を新築する現場では、本来なら重要な役割を果たすはずの工事監理者が、その業務・役割を全うしていないことが多いです。建築会社によっては、そもそも工事監理者にやるべき業務をやってもらおうとしていないこともあるくらいです。

これが、住宅業界で長らく欠陥住宅を生み続けている理由の1つにもなっていると考えますが、なかなか改善される様子はありません。ここでは、住宅を新築する際の工事監理者が実質的に不在となっている問題について解説します。

この問題は、皆さんの自宅の施工ミス、建築トラブルとも関係しうることですので、知っておいてほしいものです。

工事監理と工事監理者

住宅を建築する際には、工事監理者を定めて工事監理を適切に行わなければなりません。その工事監理者が不在だと言われても、そもそもそれは何をしている人かわからないと理解しづらいですね。まずは、工事監理と工事監理者について説明するところから始めます。

工事監理とは

この「工事監理」とは、建築士法の第2条8項に定義されており、その内容は以下のとおりです。

「工事監理」とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することをいう。

引用元:建築士法の第2条8項

ちなみに、設計図書については同法同条6項で以下のとおり定義されています。

「設計図書」とは建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を、「設計」とはその者の責任において設計図書を作成することをいう。

引用元:建築士法の第2条6項

つまり、工事監理とは、図面(設計図)や仕様書といった設計図書と現場で行っている工事を照合することです。設計図書のとおりに工事しているかいないかを確認するのですね。

工事監理者とは

そして、この工事監理を行う者が「工事監理者」です。

建築士には、「一級建築士、二級建築士、木造建築士」と3つの種類がありますが、この建築士が行う設計または工事監理について、建築士法の第3条で定めています。つまり、建築士が工事監理者になるということですね。

住宅建築では工事監理者が実質的に不在なことが多い

その住宅が設計図面通りに、適切に建築工事がなされるかどうかは、工事監理者である建築士による工事監理が最も重要なことなのです。しかし、この工事監理が適切に実施されていない現場が多数を占めているという事実が、住宅業界の悪しき現状です。

アネストでは、年間1,500件(※)を超える現場で住宅検査(住宅診断)などを行っておりますが、それらの経験から、そもそも工事監理者が現場に来ていないことがどれほど多いことかよくわかっています。

※2023年時点では年間2,000件を超えている。

しっかり住宅を建てる為の工事監理者が不在で、工事監理がまともに実施されていないなか、安心できる住宅が建築されるとは思えませんね。もちろん、工事監理者が適切に監理を行い、適切な工事が行われている現場もあります。しかし、それは残念ながら少数派です。

工事監理者が現場に行かないことが多い

  • 工事監理者の不在現場 → 多い
  • 適切に工事監理する現場 → 少数派

工事監理者は、建築確認申請(=こんな家を建てますよ、という行政または指定確認検査機関への申請)では書面に明記されます。しかし、記載されているだけで現場に工事監理に行かないことがあまりに多いため、問題となっているのです。

書類上の工事監理者は存在するが、実質的にはいないのと同じ状況になっているというわけです。

住宅の施工レベルは運・不運の問題になっている

工事監理が適切に実施されていなくても、工事が適切に行われることもあります。それは、施工会社・現場監督・現場の職人の全てが良い会社や人である場合です。この良いとは、人柄のことではありません。技術・知識・仕事への責任や情熱がある会社や人のことです。

そういった条件が揃えば、工事監理者が不在でも良い住宅、つまり設計図書に沿って建築されて、施工品質も保たれた住宅が建築される場合もあります(結果が良ければいいわけでないですが)。しかし、あなたが建築する(あるいは購入する)住宅の施工会社や現場監督、職人が良いかどうかを事前に知ることは現実的には無理があるでしょう。

これでは、良い住宅が建築されるかどうかは、まるで運・不運の問題になってしまっています。

一級建築士

大事なマイホームなのに、運か不運かで建物の安全性、欠陥の有無が決まるなんて受け入れられないですよね。

現場監督は工事監理者ではない

ちなみに、工事監理者とは別に現場監督という人がいます。

監理者と言葉が似ているために混同する人もいますが、全く異なるものです。現場監督には前述のような工事監理(設計図書と工事の照合)の役割はありません。

建築会社によっては、工事監理者と現場監督を兼ねていることもあるので、その場合は両方の役割を果たすということですね。

本来ならば、現場監督は工事の進捗管理・段取りをしつつ、適切に工事が実施されるようにチェックするものなのですが、現実には進捗管理(工事の段取り)しかできていない現場監督が多いです。会社からもそれだけを求められることが多くなっており、施工品質の適切な管理は誰もしていないという住宅現場が本当に多くなっています(ざっくりとして施工品質の管理だけをしている会社が多い印象です)。

このことは、欠陥住宅問題がいつまでもなくならない要因の1つになっていると言えます。

また、現場監督には若い人も多く、職人の方がベテランで指示をしようとしても聞いてもらえないこともあります。これでは、良い家作りができるとは思えません。

現場監督と工事監理者の違い

  • 現場監督:工事の進捗管理・段取りなどをする人
  • 工事監理者:設計図書と現場の施工の照合などをする人

アネストの住宅あんしん工程検査(建築中の住宅検査)は、工事監理者となるわけではありませんが、建築工事が適切に実施されるように第三者として検査を行うものです。このような業界の現状には本当に必要な住宅検査サービスだと考えています。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。