注文住宅を建てるとき、建物の上棟(=棟上げ)まで建築工事が進んだ段階で上棟立会いを行うことがよくあります。上棟立会いとは、簡単に言えば、上棟のタイミングにおいて現地で建物の基本的な説明を受けたり、構造部分をチェックしたりする機会です(詳細は後述)。
これは、中間立会いと言われることもありますが、中間立会いは、上棟時のみではなく、基礎配筋工事や断熱・防水工事のときにも実施されることがあるので、上棟立会いより広い範囲で使用される言葉です。
アネストでは、基礎工事から建物完成までの間の第三者検査を行っている関係もあり、上棟時の立会いについて質問を受けることもあります。そこで、新築一戸建て住宅の上棟立会いについての基礎知識と立会い時に施主が確認すべきチェックポイントを解説します。
この記事は、注文建築を建てる人向けですが、建築中の建売住宅を購入する人にも役立つ内容です。
上棟立会いの基礎知識
新築住宅の上棟立会いとはどういうものか、何となくイメージしているものの、実は詳細を理解していないという人も多いようです。「上棟の立会いがあるので同行してほしい」と問合せを受けたものの、その日に何をする予定か、何を現地で確認できるか知らないというのはよくあることです。
まずは、ここで基礎知識を習得しておいてください。
上棟とは?
まず、住宅の新築においては基礎的な言葉ですが、上棟の意味を正しく把握しておきましょう。
上棟は「じょうとう」と読みます。別の言い方で、棟上げ(むねあげ)とも呼ばれていますが、同じ意味で用いています。
上棟とは、屋根の一番上の部位である棟木(むなぎ)の部分を取り付けることです。以下が上棟した状態で、赤い矢印の先端が棟木です。
屋根の一番上の木材を設置しているわけですから、その下の柱や梁もあるのがわかりますね。木造在来工法(軸組工法)の建物を上棟した時点では、このように骨組みだけの状態です。
上棟立会いとは?
上棟立会いとは、建物が上棟した後に現地で施主と建築会社が立ち会う機会のことで、概ね以下のことを行います。
上棟立会いで行うこと
- 建築会社(ハウスメーカー)から建物の構造について説明を受ける
- 電気配線・コンセント等の位置を確認する
- 施工不具合の有無を確認する
- 上棟式を行う(※)
※上棟式は、一般的には上棟立会いとは言わないことが多いですが、一緒に話に出てくることも多いため、並べて表記しています。
建物構造についての説明は、建築会社が施主の理解を深めるために、また施主に安心してもらうために実施することがあるもので、電気配線・コンセント等の位置確認は、施主と建築会社の認識にずれがないかの確認や施主から変更希望がないかなどを確認する目的で実施しています。
施工不具合の有無の確認は品質管理ですね。もし、不具合(施工不良)が見つかれば補修してもらうことになるので重要な機会です。
上棟立会いというと、上棟する時に立ち会うことを意味しているように聞こえますが、実は、現場によって、または建築会社やハウスメーカーによって、立ち会うタイミングのずれや、実施することに違いがあります。いつも同じとは限らないということです。
上棟立会いは、ハウスメーカーや工務店によっては、構造見学会と呼ぶこともあります。これらは同じ意味で使われていることが多い用語です。
上棟式
前述したように上棟式は、本来なら上棟立会いとは異なるものですが、近いタイミングで行われるので簡単に説明しておきます。
上棟式とは、棟上げまで工事が進んだ段階で、工事の安全、建物の完成といったことを願い、且つお祝いする機会です。その出席者は、施主・設計者・現場監督・大工との職人・その他の建築会社の人ですが、現場により差異はあります。現場監督がいない等で施主が怒っていた現場もありました。
上棟式では、ご祝儀や飲食費用などで参加人数などにもよりますが、7~15万円くらいの費用がかかります。この飲食費用とは、上棟式の場で必要となるものであって、建築途中に何度が見学に行ったときに差し入れするようなコストは含んでいません。
建て方と建前とは?
上棟する頃になると、建て方(たてかた)や建前(たてまえ)という言葉が使われることもあります。
建て方とは、基礎工事の次の工程である土台の設置から柱・梁などの構造材を組んで上棟するまでの作業のことです。「上棟」が棟木の部分を取り付けることであるのに対して、「建て方」はその前の工程からの一連の作業を指すという点で違いがあります。
建前とは、上棟や上棟式と同じ意味で用いられています。
上棟立会いのチェックポイント
上棟立会いでは、施工不具合の有無を確認するという大事な目的があることを忘れてはなりません。建築会社からは、構造などを説明する機会とだけ案内されて、施工状態をチェックすることもなく終える人もいますが、せっかくの機会ですから意義あるものにしいたいですね。
ここでは、上棟の立会いに際して具体的にチェックすべきポイントを紹介しますので、参考にしてください。
土台
- 基礎との取り合い
- 土台継手とナットのかかり方、締付け力
- 仕口・継手の位置
- 接合方法・接合状態
- 金物の状態
- 金物の認定マーク
- 防腐・防蟻措置
床組
- 位置
- 高さ
- 床束・束石の取付け
- 仕口・継手の位置
- 接合方法・接合状態
- 金物の状態
- 火打ち
- 構造用合板による剛な床組
- 防腐・防蟻措置
柱
- 通し柱の位置・垂直度
- 隅柱の補強
- 土台との接合
- 横架材との接合
- 金物の状態
- 欠込み部の補強
- 防腐・防蟻措置
横架材(梁・桁・胴差)
- 構造耐力上支障のある欠込み
- 仕口・継手の位置
- 接合方法・接合状態
- 金物の状態
筋交い
- 端部接合方法
- 金物の取付け
- 両端の柱の金物による固定
- 使用箇所
- 本数
- 寸法
面材耐力壁
- 筋交いに代わる合板の設置
- 筋交いに代わる合板の釘の種類
- 筋交いに代わる合板の釘ピッチ
小屋組
- けた行筋交いの設置状態
- けた行筋交いの振れ止め
- 火打ちの設置状態
- 垂木の緊結方法・垂木の状態
- 仕口・継手位置
- 接合方法・接合状態
- 金物の状態
- 野地板の状態
屋根
- 下葺き材の重ね合わせ
- 下葺き材の立上げ寸法
- 板金による捨て谷、本谷、雨押さえの状態
- 浅木の取付け状態
- 緊結状態
立会いするタイミングによって、これらすべてをチェックできるとは限りませんが、可能な範囲で確認したいものです。
ただし、これらを見て正確に判断していくには、建築の専門知識や経験が必要です。誤った指摘をして建築会社と揉め事になるのは避けたいですね。そこで、第三者の建築士によるホームインスペクション(住宅検査)の依頼も検討するとよいでしょう。
上棟立会いの注意点
家を建てる機会はそう多くないですし、多くの人にとっては一度だけの経験ですから、何を注意すればよいのかわかりづらいものです。ここでは、上棟立会いに関わることで、施主が後悔することのないように注意すべき点を紹介します。
上棟立会いをただの見学で終わらせない
上棟立会いは、ただ建築会社やハウスメーカーからの説明を聞いて終えるだけではもったいないです。ただ、ざっくりと見学して帰ってきたというのでは、大事な機会を充分に活かしきれていないと考えられます。
住宅の構造耐力に関する大事な部分を確認できる機会ですから、施工不具合の有無をチェックするという意識をしっかりもって臨んでください。友人や身内に建築関係者がいるなら助っ人として立ち会ってもらえるとありがたいですね。
建築会社の指定日ではだめかも
建築会社より、上棟立会いの実施日を指定されることが多いですが、そのときが施工不具合の有無をチェックするタイミングとして適切かどうか、よく確認するようにしてください。
なぜなら、構造耐力に関する大事な部分の施工不具合のチェックをすることを想定せずに、日程を案内することも多いからです。「立会いはあくまで立会いで検査してもらうつもりではなかったので」などと言われることもありますから、事前に確認すべきです。
上棟立会いの日程を「構造耐力に関する大事な部分の施工不具合のチェックをできる日程」に合わせてもらうのもよいですし、上棟立会いとは別にチェックする機会を設けてもらうのもよいでしょう。そこは、建築会社の担当者とよく相談してください。
「構造耐力に関する大事な部分の施工不具合のチェックをできる日程」とは、上棟後に行う構造金物の取り付けを終えたときです。適切に施工不具合の有無をチェックするために「構造金物を取り付けた状態を確認できる日時」を建築会社に確認するとよいでしょう。
上棟立会いの所要時間
上棟立会いに必要な時間について質問を受けることがありますが、それは立会いでどこまでするかによって大きな違いあります。施工不具合のチェックまでするならば、建物面積が100平米ほどの住宅のチェックだけで1.5~2時間程度が目安です。
それに、建築会社からの説明等がかかりますが、それは、30分~1時間程度であることが多いです。こちらは建築会社にも確認しておきましょう。
雨が降っても立会いできるか
上棟立会いや上棟式の日に雨が降ることもあります。多少の雨ならば問題なく実施できますが、あまり強いと延期するということもあります。また、施工不具合のチェックを第三者の専門家に依頼したときは、足場にあがってチェックしてもらえるのですが、雨が降ると危ないために延期ということもあります。
天候についての対応は、建築会社やホームインスペクション業者とも相談しながら検討してください。
上棟立会いで用意しておきたい持ち物
立会い当日に用意しておくと便利なものは以下のものです。
- 筆記用具・メモ
- メジャー
- カメラ(スマホでOK)
- 図面
建築現場に入るには、ヘルメットが必要ですが、それは建築会社が用意してくれるでしょう。また、天候や建物プラン次第では懐中電灯があると便利なこともあります。
ここまで読んでみていかがでしょうか。
上棟立会いと上棟式の区別、上棟立会いを単なる見学で終わらせるべきではないことなどが理解できたのではないでしょうか。たった一度だけの大事な機会ですから、意義あるものにするよう心掛けてください。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。