引渡しから2年以内のホームインスペクション

中古住宅を購入したとき、売主が不動産会社(=宅地建物取引業者)だったという人は多いでしょう。一般個人が所有する家を不動産会社が買い取って、リフォームしてから再販するという買取再販物件が増えているだけに、中古住宅でも新築同様に不動産会社が売主となっているケースは珍しくありません。

不動産会社は、一般個人とは違って、不動産のプロのはずですから、宅地建物取引業法によって一般個人よりも重い責任を持つことになっているため、買主としては、売主の責任範囲や期間をよく理解した上で、購入し、さらには購入後の対応をしていく必要があります。

何も知らずにいると、売主に求められるはずの責任を求めず、自己負担している人もいるので、ここで学んでおいてください。

不動産売買における契約不適合責任とは?

契約不適合責任とは?

最初に、中古住宅の買主が知っておくべき契約不適合責任の基礎知識について解説します。ここを正しく理解しておかないと、不動産会社である売主へ求められる内容や期間について誤解して、チャンスを逃してしまうことになるので、ご注意ください。

旧民法の瑕疵担保責任から新民法の契約不適合責任へ

2020年4月1日に、大幅に改正された民法が施行されました。当時はニュースでも大きく取り上げていましたが、もう忘れてしまった人も多いのではないでしょうか。その改正のなかでも瑕疵担保責任が契約不適合責任へ変わったことは注目を集めました。

旧民法の瑕疵担保責任では、隠れた瑕疵があった場合に、買主は契約解除を求めたり、売主に損害賠償請求したりすることができました。

これに対して、新民法の契約不適合責任では、対象物の種類・品質・数量が契約内容に適合していない場合に、買主は契約解除を求めたり、売主に損害賠償請求したりできるだけではなく、追完請求や代金減額請求をできるようになりました。

旧民法では、隠れた瑕疵であること、つまり買主がその瑕疵を知らないことについて過失がないことが条件でしたが、新民法では、買主に過失があったとしても契約解除などを認めることになったのです。

住宅の買主が売主に求められる権利

改正後の民法において、契約不適合責任の対象となることが確認された場合に、住宅の買主が売主に求められる権利について紹介します。

追完請求

契約の対象物の種類・品質・数量が契約内容と異なる場合、その不足分について完全なものを求めることができるものです。住宅の売買において想定される追完請求とは、不具合などの補修の請求です。

たとえば、雨漏りしていると売主から告知を受けていないにもかかわらず、雨漏りしていた場合、その原因箇所を特定して補修し、雨漏りによって被害にあっている部位についての補修も求めるということが考えられます。

代金減額請求

代金減額請求とは、追完請求しても売主が対応しないときや対応できないときに、売買代金の減額を請求することです。

住宅の売買では、雨漏りの補修を求めた(追完請求)にもかかわらず、売主が対応しないときに、減額請求することが考えられます。また、補修仕様がない問題が確認された場合、追完請求せずに、最初から代金減額請求をすることができます。

契約解除

追完請求しても売主が応じない場合や、代金減額請求により減額されたとしても、契約した住宅を普通に生活できるように補修などをすることが難しい場合、さらには、売主が契約を履行することが不可能な場合には、買主は契約を解除することができます。仮に売買契約書において違約金を定めていたとしても、買主はそれを支払う必要はありません。

損賠賠償請求

改正後の民法(新民法)では、売主が故意に隠していたことや売主の過失で起こったことであれば、買主は売主に損害賠償請求をすることができます。求められるのは、契約不適合となっている事項と因果関係がある範囲内です。ただし、売主に過失がない場合、損害賠償請求をすることはできません。

売主が不動産会社なら契約不適合責任の期間は引渡し日から2年

売主が不動産会社なら契約不適合責任の期間は引渡し日から2年

契約不適合責任は、民法では、買主が一般消費者である場合、契約不適合となることがあると知ってから1年以内に売主へ通知することになっていますが、一方で、売主の契約不適合責任を免除するとの特約を付けることができることになっています。そもそも、売主と買主の間で合意した条件の特約を付けることもできます。

これを前提に、売主が不動産会社以外であるときと、売主が不動産会社であるときの2つのパターンで、契約不適合責任の期間について解説します。

売主が不動産会社以外であるとき

売主が不動産会社以外であるとき、売主と買主の合意した内容で特約を付ければ、基本的にはそれが有効です。

契約不適合であることを知ってから1年以内という民法の原則どおりとした場合、いつ発見されるかわからないため、売主が非常に不利な立場にあるとも言えます。

そこで、引渡しから3ヶ月などと期間を限定した内容とすることが多いです。また、建物の築年数が経過していて古い場合には、売主の契約不適合責任を免責とすることも少なくありません。

そして、期間だけではなく、対象となる契約不適合の内容を「雨漏り被害」「構造木部の腐食」「給排水管の故障」「シロアリ被害」のように限定したものとすることも多いです。

ただし、売主が不動産会社以外であるときでも、法人である場合には、買主が一方的に不利な内容は認められない可能性もあります。

売主が不動産会社であるとき

売主が不動産会社であるとき、前述したように「引渡しから3ヶ月などと期間を限定した内容」は認められません。それは、宅地建物取引業法の第40条の規定によるものです。

(担保責任についての特約の制限)
第四十条 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百六十六条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から二年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2 前項の規定に反する特約は、無効とする。

宅地建物取引業法の第40条

宅地建物取引業者とは、不動産会社のことです。不動産会社が自ら売主となる場合、契約不適合責任について、民法で規定する期間について、引渡しの日から2年以上となる特約を除いて、これおより買主に不利なる特約をしてはならず、これに反する特約は無効とされています。

つまり、売主が不動産会社なら、最低2年以上は契約不適合責任を負いなさいと言っているわけです。しかも、これに反する特約は無効ですから、たとえば、引渡し日から1年という特約とした場合、引渡し日から2年になるというわけではなく、民法の原則に従い、買主が契約不適合であることを知ってから1年以内ということなります。

たとえば、5年後に知ったことなら、そこから1年ですから、合計6年になりますね。

こうなると、不動産会社もさすがにつらい状況になるため、ほとんど全ての売買契約において、売主が不動産会社の場合は、引渡し日から2年という期限にしているのが実情です。

よって、売主である不動産会社から中古住宅を購入したのであれば、契約不適合責任の期間は2年だと解釈してほぼ問題ありません。もちろん、売買契約書に置いてその内容はきちんと確認してください。

中古一戸建て住宅診断(ホームインスペクション)
中古住宅のホームインスペクション

期間切れ前のホームインスペクションが有効

ここまで契約不適合責任とその期間について解説してきました。前振りが長くなってしまいましたが、ここからが今回の記事でお伝えしたいことです。

期間切れ前のホームインスペクションが有効

引き渡し日から2年経過する前に売主に請求すべき

売主が不動産会社である中古住宅を購入したのであれば、その住宅の契約不適合となる問題については、引き渡し日から2年以内に売主に通知(請求)しなければならないことが理解できたと思います。売買契約の締結日から2年ではなく、引き渡し日から2年ですので誤解しないようにしましょう。

契約不適合責任の対象となる不具合の確認はプロ任せがおすすめ

契約不適合の対象となりうる問題は、建築知識・経験のない人でも容易に気づけることもあれば、気づきづらいこともあります。2年を過ぎると請求できなくなってしまうため、建物を調査する専門家であるホームインスペクターに依頼することを考えましょう。

住宅の建物における著しい劣化や施工不具合の有無を調査することをホームインスペクション(住宅診断)と言いますが、これをプロにお願いするという方法がおすすめです。

2年経過の少し前にインスペクションをおすすめ

ホームインスペクションを利用する時期は、既に購入して居住済みの人なら、2年が経過する2~3ヶ月前がよいでしょう。2年ぎりぎりで利用するよりも、何か大きな問題が見つかったときに弁護士などへ相談できる期間がある方が落ち着いて対応を検討できるからです。

また、もし購入してから居住する前で、家財道具などを搬入していないのであれば、家財道具を入れる前の利用をお勧めします。家具等で隠れる箇所が増える前に利用する方がプロに確認してもらえる範囲が広いからです。そもそも、まだ購入する前という人は、購入前(売買契約前)に利用して問題の有無を確認してから購入判断するとよいでしょう。

床下と屋根裏(小屋裏)もチェックすべき

ホームインスペクションという専門家にホームインスペクションを依頼するのであれば、普段は自分で見ることのない床下や屋根裏の調査もしてもらうことをお勧めします。隠れていた問題が見つかりやすいスペースだからです。

もし、床下と屋根裏の点検口が無い場合、多少のコストがかかるとはいえ、これを機会に点検口を先に設置してから依頼するとよいでしょう。点検口の設置費用は、業者や仕様にもよりますが、2~3万円/箇所が相場です。

ここまで、売主が不動産会社である中古物件を購入した人を対象として、引き渡し日から2年経過する前の建物点検の重要性とホームインスペクション利用のお勧めについて解説しました。もちろん、最初からプロに依頼せず、まずはご自身でできる範囲の点検をするのもよいでしょう。

いずれにしても、2年を超えると売主に請求できなくなってしまうので、その前に早めに動いて対応しておきたいものです。

中古一戸建て住宅診断(ホームインスペクション)
中古住宅のホームインスペクション

執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。