契約前の注意点

住宅購入に際して、売買契約を締結する前に買主が注意すべき点の1つが、設計図書(せっけいとしょ)などの大事な図面・仕様書などを要求して受領することです。設計図書などの資料は、その住宅のことをよく理解する為にかかせないものであり、購入後に適切にメンテナンスをするときや、補修やリフォームをするときに必要となるものです。

買主が売主から受領しておくべき資料や住宅購入と設計図書の引き継ぎに関する実態について、新築住宅と中古住宅に分けて解説します。

できれば、購入する前にこれを読んで売主に請求しておきたいことですが、既に購入済みの場合、今からでも売主に資料の引き継ぎをお願いするとよいでしょう。

なぜ、設計図書を引き継ぐべきか?

最初に、買主、つまり新たに所有者になる人が、なぜ設計図書を売主から引き継ぐべきなのか説明します。

なぜ、設計図書を引き継ぐべきか?

設計図書とは?

設計図書は、平面図・立面図・敷地配置図・断面図などの建物の設計図をまとめたもので、「せっけいとしょ」と読みます。

新築するときに、プレカット工場でその一部を基に部材を製作し、職人等がそれを基に現場で作業するもので、この設計図書がないと家を建てることができません。

設計図書の引き継ぎの必要性

設計図書を見ると建物プランを把握することができるため、最初に設計した人以外の人がリフォームやリノベーションをするときに、検討しやすくなります。これが何もないと、分からないことが多すぎて、検討困難となります。

設計図を見ることで、現場で目視できない部分がどういう構造になっているか確認できるので、非常に大事なものだといえます。

将来のリフォーム、リノベーション、メンテナンス(修繕)等の際に持っていた方が断然有利ですので、保管しておくようにしてください。

新築住宅の場合

新築住宅を購入すれば、本来であれば設計図書は当然に売主から買主へ渡されるものです。売主・設計事務所・施工会社・買主のいずれもが、設計図書を保有するのが最も良いでしょう。しっかりした不動産会社や施工会社であれば、当然にこのようにしています。

新築住宅の設計図

購入時に受領しないと将来は入手困難となることがある

買主としては、将来、必要になってから売主などへ提出をお願いしても長い年数を経過する間に図面等のデータを失ったと言われることや、売主等が倒産して提出依頼することすらできないというリスクもあるので、購入時に受け取るように心がけましょう。

設計図書を受け取るタイミング

この設計図書を受け取るタイミングですが、まず契約前(購入判断の前)にそのコピーをもらいましょう。設計図書からその住宅のメリットやデメリットを読み取ることができ、購入判断のために役立つこともあるからです。

また、第三者の専門家にホームインスペクション(住宅診断)を依頼すると、設計図書の一部が必要となります。

仮に、契約前の段階で詳細な図面を受領していない場合には、契約時には必ず、受領するようにしてください。

設計図書を買主に提出しない不動産会社もある

しかし、不動産会社によっては

「平面図と立面図しか渡していません」
「会社に来てもらえば閲覧は可能ですが、渡していません」
「いつも簡単な図面程度しか渡していません」

などと、主張をすることもあります。

「図面を見られるとまずいことでもあるのか?」と思われても仕方ないことですね。購入前のホームインスペクションを依頼された方を介して図面の準備をお願いしても、なかなか対応しようとしない業者も見られます。

もちろん、これらは非常に対応の悪いケースですが、実際にこういったことは少なくありませんので、ご注意ください。「それが会社の方針です」などと悪びれずに言うこともありますが、同じ会社でも担当者によって対応が異なることもあるようです。

売買契約前に受領できる資料をヒアリングすべき

まず、契約前の段階でどのような資料を受領できるのかよく確認してください。できれば、書面やメールで受取できる資料の一覧を提示してもらうことをお勧めします。契約後に、「言った」「言わない」のトラブルを防ぐためです。

このヒアリングをした際に、前述のように否定的な対応であった場合には、強く要求するようにしてください。万一、契約前に要求しても断られるようであれば、そのような不動産会社からは購入するべきではないでしょう。

既に契約済みの方で、不動産会社から設計図書の提出を拒否されている方は、粘り強く交渉するようにしましょう。

注文住宅の場合は売買契約ではなく建築工事請負契約になりますが、その契約時もしくは着工前に設計図書のうちできる限り多くを受領することが最もおすすめです(契約後に詳細図を作成していくことが多く、契約時点では詳細図までもらうことは難しいです)。

設計図書とは

設計図書とは、「せっけいとしょ」と読みます。平面図や立面図、配置図、矩計図などの1つ1つの設計図の総称です。建築工事をする際に必要となるものですが、将来の建物のメンテナンスやリフォームの際にも必要となることが多いです。

新築住宅でも、注文建築の家では多くの設計図を作成することが多く、建売住宅では詳細な設計図を作成しないことも少なくありません。

想定される設計図書の一覧

それでは、設計図書にはどのようなものがあるのか見ておきましょう。

  • 建物概要・設備概要
  • 仕様書
  • 内部・外部仕上げ表
  • 敷地配置図
  • 平面詳細図
  • 立面図
  • 断面図
  • 矩計図
  • 基礎伏図
  • 各階床伏図
  • 小屋伏図
  • 軸組図
  • 屋根伏図
  • 電気設備図
  • 給排水設備図
  • 金物配置図
  • 建具リスト
  • 展開図
  • 壁量計算書または構造計算書

作成する図面は構造種別や会社によって異なりますので、上のリストは参考と考えてください。建売住宅なら、電気設備図や給排水設備、建具リスト、展開図などを作成しておらず、売主から買主に引き継げないことが多いです。

一級建築士

注文住宅であっても、これらの全てを作成しないケースは多いので、設計契約や工事請負契約を締結する前に提出される設計図の種類は聞いておきたいものです。

他にも受領したい資料

また、不随する資料として、以下のものも受け取っておきましょう。

  • 地積測量図
  • 区画配置図(区割図)
  • 地盤調査報告書
  • 地盤改良工事の施工報告書
  • 建築確認申請書(1~6面)・建築確認済証
  • 中間検査合格証
  • 検査済証

このうち、区画配置図は、複数の区画がある分譲地の場合にあるもので、名称が異なることも多いです。地盤改良工事の施工報告書は、地盤改良が実施された場合にのみ存在するものです。検査済証は、完成後に発行されるものなので、未完成の新築住宅について契約する場合はまだ入手できません。

注意点

新築住宅の売買をしたとき、売主から買主に存在している図面の全てを提出する(引き継ぐ)とは限りません。買主が何も要求しなければ、平面図・立面図・敷地配置図くらいしか提出されないこともあります。よって、買主から積極的に「作成している設計図の全てを引き継ぎで欲しい」と伝えるようにしましょう。

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中古住宅の場合

中古住宅の購入であっても、買主が売主より受領しておきたい設計図書の種類は、新築住宅と同じです。しかし、現実にはそれが難しいので、ここで中古住宅の購入時の設計図書の請求と受領の実態について解説します。

中古住宅の図面

売主から買主へ設計図書を引き継がないことが多い

中古住宅の売買に際しては、残念ながら、売主から買主に適切に設計図書を引き継がれないことの方が非常に多いです。当然のことながら、引き継がなくてよいというわけではなくて、できる限り引き継ぐべきものですが、それをできない事情があるのです。

売主が設計図書を持っていないことが多い

中古住宅の売主が新築当時に建築業者から設計図書を受け取っていないこともあれば、受け取っていたものの紛失してしまったということが多いです。2010年くらいまでは、売主である不動産会社の中には、買主に設計図書を引き継ぐべきだと考えていない会社が多く、酷いときには寸法が記載されていない簡易な間取り図しか受領していない買主もいたくらいです。

また、売主が受領していたものの、その図面がどこにあるかわからない、つまり紛失したというケースも非常に多いです。30年も40年も経過すると保管場所が分からなくなるのも不思議ではありません。当時は、全て書面でしたので、現在のようにPDFデータを受け取ってクラウドに保管しておくこともないので、探しづらいですね。

相続が発生して代替わりしている場合は、新築当時の図面を探すのはより困難です。相続後に売却している物件は多いですから、どうしても入手困難となってしまいがちです。

所有者が何度か替わっていることもある

中古住宅を購入しようとしたとき、その物件の所有者が既に何度も替わっていたという事例も少なくありません。前述した相続もそうですが、単純に住み替えのために売買されることも多いので、築30年くらいの住宅になれば、今の所有者が3代目ということもありえます。

所有者が替わる度に設計図書を引き継ぎしているとよいのですが、現実にはそうしていないことが多いため、今の所有者が持っていないケースが非常に多いです。

とにかく、中古住宅の場合、売主が設計図書を保管していないことは少なくありません。

買主としては、不動産仲介業者を介して売主に設計図書の有無を確認してもらい、有るならばきちんと引き継げるように依頼してください。本来ならば、当然に新しい所有者(買主)が引き継ぐべきものですが、引き継いでいないことも少なくありません。

売主が持っていないのであれば、買主が設計図書の引継ぎを要求しても頂くことはできませんね。ちなみに、住宅診断(ホームインスペクション)は、簡易な間取り図だけでもあれば対応はできます。

新築したハウスメーカーや設計事務所から入手できるか?

売主が設計図書を持っていないときに考えたいのは、新築したときのハウスメーカーや工務店、設計事務所が持っていないか?持っている場合に提出してもらうことができないか?という点です。

現実的には、ハウスメーカー等が保管している可能性が低く、入手するのは簡単ではありませんが、聞いてみてもよいでしょう。仮にハウスメーカー等が保管していたとしても、当日の契約者(建売住宅なら買主、注文建築なら施主)から要望しないと提出してもらえないこともあるので、そのときはその人(またはその相続人)に協力を求めることになります。

リフォーム時の図面の有無を確認しよう

購入したい中古住宅が過去に大きなリフォーム(増改築・補修工事・耐震補強工事などを含む)を行っていた場合で、その際の図面や仕様書があれば、それらも引き継ぐようにしましょう。特に耐震補強工事や増築、間取り変更(壁の位置を変更するような工事)をしていたなら、その時点の図面を作成している可能性は考えられます。

一級建築士

不動産会社の営業マンによっては、悪意なく、図面の引き継ぎの重要性を知らずに、入手しようとも、売主へその有無を確認しようともしないことがあります。買主からの働き掛けが必要です。

確認申請書や検査済証がない中古住宅も多い

住宅を新築するときには、所定の図面を添付して建築確認申請という手続きが必要であり(一部の地域・条件を除く)、適切にその手続きをして完成した建物であれば、建築確認申請書・中間検査合格証・完了検査済証があるはずです(その時期により、名称が異なる)。

これらは、必要な手続きを踏んだ物件である証となるものですから、中古住宅の売買時には、設計図書と一緒に買主が引き継いでおきたいものです。よって、不動産会社に要望してください。

ただし、設計図書と同じで、これらの書類についても売主が保管しておらず、入手不可であるケースが多いです。これは残念なことですが、中古住宅取引においてよくある現実でもあります。

そこで、これに代わる書面として、建築確認台帳記載事項証明書(役所により名称が異なる)を役所で入手して、保管しておくようにしてください。

この書面は、建築確認申請や完了検査の日付が記載されたものであり、新築当時に適切な手続きをとっていることを確認できるものです。ただし、完了検査の日付が空欄になっている場合があり、その場合は、完了検査を受けていないと考えることになります。

一級建築士

建築確認台帳記載事項証明書は、過去の申請物件のデータを証明するものですが、役所によってデータを保持している期間が異なります。あまり古い住宅ではデータが無くて、この書面を入手することができないことが多いです。

設計図書の保管はPDFファイルをおすすめ

設計図書の保管はPDFファイルをおすすめ

設計図書を不動産会社やハウスメーカーなどから受領した後、あなたはどのようにそれを保管しますか?

将来のリフォームやメンテナンス、売却のときに役立つことが期待される大事な図面ですから、無くさないように大事に保管しておきたいものです。

おすすめする方法は、データで保管することです。特に後から見やすいように綺麗な状態でPDFファイル化して保存しておくことを強くおすすめします。

もし、書類で受領した場合には、自分でスキャンしてPDF化する方法もありますが、最も簡単な方法は、不動産会社やハウスメーカーから提出してもらうときに、PDFファイルで提出するように求めることです。

何年も経過したときに見つけやすいように、クラウドサーバーでもパソコンでも、図面と検索すれば表示されるように、「図面」フォルダを作成して保管されてはいかがでしょうか。

何かトラブルが生じたときのため、重要事項説明書や売買契約書もデータ化しておくことを推奨しますが、これらと設計図書を一緒に保管しておくのもよいでしょう。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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