中古住宅のホームインスペクションは必要ないと不動産業者に言われた

中古住宅を購入するときにホームインスペクション(住宅診断や住宅検査と言われることも多い)を利用することが本当に多くなりました。アネストでは、2003年よりこのサービスをしてきましたが、これだけ普及することになって嬉しい想いも大きいです。

宅地建物取引業法の改正により、2018年からは、不動産業者がホームインスペクションのことを売主や買主へ説明することなどが義務付けられました。この宅地建物取引業法のなかでは、ホームインスペクションを建物状況調査と呼んでいます。

今では当たり前のように利用されることになったホームインスペクション(建物状況調査)ですが、不動産業者や営業担当者によっては拒否反応を示すケースもあり、利用したいと申し出た購入希望者へ「ホームインスペクションは必要ない」と説明するケースも少なくありません。

上の法律により、売主へも買主へもホームインスペクションのことを説明し、利用有無の確認をしなければならないにも関わらず、必要ないという不動産業者にも困ったものですが、迷う人もいると思いますので、ここではホームインスペクションの必要性や不動産業者が必要ないと言う理由を解説します。また、必要ないという説明を信用してはならないと言える事例を写真付きで紹介します。

中古住宅のホームインスペクション(建物状況調査)の必要性

不動産業者から必要ないと言われた人へ、逆に必要性について説明します。

アネストでは、これまでに大変多くの中古住宅に対してホームインスペクション(建物状況調査)をしてきただけに、中古住宅の実態をよく把握していますので、参考にしてください。

購入後に想定外の補修費用が発生するリスク

中古住宅のホームインスペクションを行ってみると、実に様々な劣化症状や新築したときおよびリフォームしたときの杜撰な工事による施工不具合が確認されます。

購入する前にそういった問題の有無を把握していない場合、想定外の補修工事費用が発生してしまうことがあります。

もちろん、ホームインスペクションを利用することで全ての問題が明らかになるわけではありません。既存の建物で目視できる範囲で行う調査ですから、見られない箇所についてはわからないことも多いです。しかし、目視できる範囲だけでも自分たちではわからなかった問題を見つけてもらえることも多いです。

大きな後悔をすることがある

購入後に想定外の問題が見つかったときにおうリスクは前述の補修費用の負担だけではありません。意外と大きい負担になるのは気持ちの問題です。大きな投資をして購入したマイホームに重大な問題が見つかったときのショックは決して小さくないでしょう。

その対応として、売主や不動産会社に対して損害賠償請求や補修請求などをできるケースもありますが、その交渉は大変な負担で難しいものです。また、補修対応するにしても時間・労力の負担も大きいです。

ホームインスペクション(建物状況調査)で可能な範囲の確認をおすすめ

購入前のホームインスペクション(建物状況調査)で、雨漏りが疑われる症状や防水上の懸念、構造的な瑕疵、断熱性の問題などが見つかることがあるため、可能な範囲で調査依頼することをおすすめします。

できれば、床下や屋根裏内部の調査まで依頼しておくことをおすすめします(建物によっては床下・屋根裏を確認できないものもあります)。

「ホームインスペクションは必要ない」が事実ではないと言える事例

本当にホームインスペクションが必要かどうか、意味がないかといったことは、実際のインスペクション現場で見つけられた症状を見れば、はっきりとわかることです。

アネストでは、全国各地で多くの住宅を診てきたため、建物の構造耐力や性能にマイナス影響がある著しい劣化をたくさん確認してきた実績があります。その一部をここで写真付きで紹介しますのでご覧ください。

床下の基礎のひび割れ

床下で確認された基礎コンクリートのひび割れ(クラック)です。構造耐力に影響があるもので、構造クラックと言われているものです。

基礎のひび割れ(クラック)

屋根裏の雨漏り跡

中古住宅を購入するときによく心配されている雨漏りは、屋根裏で確認されることが多いです。この住宅では、梁や柱、天井材などに雨漏り跡が確認されました。

屋根裏の雨漏り

屋根裏の構造金物の取付不良

屋根裏では梁などの構造材を確認することができますが、それらを固定する構造金物(写真は筋交い金物)があるもの、きちんと固定されていない状況が見つかりました。

構造金物の取付不良

外壁のシーリングの破断

外壁材(サイディング)の継ぎ目にあるシーリング材が破断している様子です。この部分から雨水が浸入していくため、そのうち室内側へ雨漏りするリスクがある状況でした。

外壁のシーリングの破断

床下の漏水

床下点検口から床下を覗いたときに、床面に水が溜まっている状況です。つまり、床下で漏水している状況で、放置しておくとカビ・腐食・金属系の錆などの二次被害を起こしてしまいます。

床下の漏水

天井裏の断熱材の著しい隙間

天井点検口から天井裏を見たところです。壁面の断熱材が、部分的にない箇所があり、断熱不良となっています。中古住宅では、こういう断熱の問題は多数発見されています。

断熱材の劣化

ここで挙げた事例はごく一部です。こういった診断結果はたくさんあり、いずれも建物の構造耐力や防水・断熱などの基本性能に関わる不具合です。

購入する住まいに、安心して、快適に、永く暮らしていきたいなら、購入前にインスペクションを入れて確認しておく必要性がわかったのではないでしょうか。

なぜ不動産業者は必要ないと言うのか?

必要性が高いはずのホームインスペクションですが、なぜ不動産業者に必要ないと言われたのでしょうか?

この疑問にはここでお答えします。

ちなみに、全ての不動産業者が必要ないというわけではなく、推奨している業者もいます。また、同じ会社でも担当者によって主張が異なることもよくあることです。

ホームインスペクション(建物状況調査)で問題が見つかると購入してもらえない

不動産業者の営業マンが考えることは、自分が売りたいということです。これは、営業を担当するわけですから当たり前ですよね。何も悪いことではありません。

ただ、このことは、「ホームインスペクションで何か問題が見つかったら、購入してもらえないのではないか」という不安にもつながります。この不安を持つ気持ちはよく理解できますが、購入検討者にとってはむしろその問題を把握しておきたいわけですから、利害が不一致なわけです。

不動産仲介業者としては、売らないことには仲介手数料(=売上)が入らないので、問題発覚を恐れがちです。これは問題があることをわかっていて隠そうとしているわけではなく、問題の有無も把握しておらず不安になっていることの方が多いです。

問題の有無が分からず不安なのはお互いに同じなのですが、売りたい人は発覚を恐れ、買いたい人は把握したいわけですから難しいですね。

他の不動産業者に先に売られてしまう可能性がある

もう1つ不動産仲介業者が考えることは、早く契約したいということです。

なぜ早くしたいかと言えば、他の不動産業者が先に売ってしまうリスクがあるからです。また、他の不動産業者に限らず、同じ社内で別の営業マンが先に売ってしまうこともあります。

自分が売らないことには、自分の売上になりません。自分の売上にならないと歩合給がもらえないという仕組みが影響しています。

ホームインスペクションの段取りをしている間に、先に売れてしまうリスクを考えるのは多くの営業マンに共通のことです。ただ、先に売れてしまうリスクは、買いたい人にとっても同じことが言えます。気に入った物件なら先に売れてしまう前に話を進めたいと考える人は多いです。

そこで、購入前のホームインスペクションはスピードが大事だと言えます。

単純に面倒だと感じている

マイホーム購入のためにいろいろ調べて、資金計画も考えて動いている人にとって、少し信じがたいかもしれませんが、営業マンによっては、単純にホームインスペクションのための日程の手配・資料の段取りなどが面倒なので必要ないなどと拒否反応を示している人もいます。

そのような営業マンにあたってしまったのは不幸です。インスペクション以外にも大事なことを伝えてもらえないなどのリスクもありうるので、担当者の変更をお願いしたいところですね。

まとめ

不動産業者から中古住宅のホームインスペクションは必要ないとか、利用する人はいないなどと言われたら、まずはその話を疑う必要があるでしょう。実際には、本当に多くの人が利用しており、それにより問題が見つかっている事例は非常に多いからです。

担当の営業マンによって対応の差が非常に大きいので一概には言えませんが、基本的には売りたい立場の人と買いたい立場の人とでは、利害が不一致となる部分が大きいため、注意しながら取引を進めないといけません。幸いなことに、今はインターネットでいろいろなことを調べやすいですから、調べる努力は必要ですね。この記事を見て頂いたのもそういう縁ですね。

中古一戸建て住宅診断(ホームインスペクション)
中古住宅のホームインスペクション

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。