ホームインスペクションの床下と屋根裏の調査の重要性と指摘事例

住宅の購入や売却、リフォーム、メンテナンスなどに際して、ホームインスペクション(住宅診断)の調査結果を参考にしようという人は非常に多くなりました。一方で、建物の床下や屋根裏(小屋裏)の奥まで調査してもらうには、安くはない費用がかかることもあって躊躇する人もいます。

そこで、ホームインスペクションを依頼するときの参考情報として、建物の床下および屋根裏が大事であることと、その調査によって発見された著しい劣化や施工不良の事例を写真付きで紹介しますので、床下・屋根裏の調査を依頼するかどうか判断するときの判断材料としてください。

先に結論から言うと、大事な部位をたくさん見られることから、ほとんど全ての住宅において、床下・屋根裏の調査はお勧めですが、その理由・事例を確認することで納得して依頼することができるでしょう。

ホームインスペクションの基本

ホームインスペクションは、住宅の建物を対象として、著しい劣化事象や新築時の施工不良(手抜き工事や施工上のミス)の有無を確認する建物調査であり、建築士や既存住宅状況調査技術者の資格を持つ建物調査の専門家(ホームインスペクター)が行うサービスです。

住宅の売買に際して売主や買主が依頼することが多いですが、リフォーム時や自宅の点検などのために利用する人も多くなっています。

このホームインスペクションは、現地調査時点において建物全体のうち目視できる範囲を対象として調査するものですが、その対象範囲は、建物外部の基礎や外壁・屋根、建物内部の床・壁・天井・設備、床下・屋根裏などです。

この調査対象範囲のうち、床下および屋根裏(小屋裏)では、建物にとって大変大事な部位を診断することができるので、非常に重要な調査箇所とされています。

床下での調査項目と指摘事例

ホームインスペクションの調査項目の中でも重要だとされている床下の調査内容や実際にあった指摘事例を紹介します。特に指摘事例を見ることで、その重要性を理解しやすいでしょう。

床下の調査項目

床下のホームインスペクションにおける主な調査項目は以下のとおりです。

基礎

著しいひび割れ、著しい欠損・ジャンカ、著しい傾き、鉄筋の露出、著しい白華現象

土台・床組み

著しいひび割れ・欠損、腐朽・腐食、鉄骨材の劣化・腐食・錆、床組みの接合部の浮き、床の固定状況・錆、金物の設置状況(著しい緩みなど)と著しい錆、蟻害

その他

カビ、染み、蟻道、断熱材の設置状況、給排水管の固定状況、漏水、著しい地盤の陥没、著しい地面の割れ、工事残存物・ゴミの有無

床下調査の指摘事例

床下の調査で実際に発見された指摘事例を写真付きで紹介します。

漏水跡

床下で設備配管から生じたと思われる漏水野の跡です。床下漏水は、新築・中古を問わず確認されることがある指摘です。

ゴミ・残材

床下ではいろいろなゴミや工事の際の残損物が見つかります。使用していない配管、コンクリートの破片、切断して余った木材、工事中のものと思われる空き缶などのゴミまで見つかっています。

断熱材の落下

床材の裏側に設置されていたはずの断熱材が落下している状況です。新築住宅の完成時点でも何枚もの断熱材が落ちているケースもありました。

染み(漏水の可能性)

床下の土台などの木部や基礎コンクリートの表面に水染みが見つかることも多いです。設備からの漏水や雨漏りが気づかれないまま放置されていて、酷いときは木部が腐食していることもあります。

基礎の著しい欠損

建築時に配管経路と基礎のプランをきちんと計画していなかったからか、配管のために基礎が著しく破壊され、基礎内部の鉄筋が露出しています。鉄筋の錆にもつながるリスクがあります。

基礎の構造クラック

床下では外部と違って基礎にモルタルがなく、コンクリートを直接に確認できます。このような大きめの構造クラックが見つかることも少なくありません。

シロアリ被害(蟻害)

シロアリの被害が最も多く見つかるのは床下です。木材がシロアリの被害にあって著しく劣化している状況です。シロアリ被害は中古住宅で見つかる指摘事例です。

ここで紹介した指摘事例のうち、シロアリ被害(蟻害)以外は、新築でも中古住宅でも確認されることがあるものです。

アネストの住宅インスペクション

屋根裏(小屋裏)での調査項目と指摘事例

床下に続いて、屋根裏における調査内容や実際にあった指摘事例を紹介します。こちらも、指摘事例を見ることで重要性がわかりやすいでしょう。

屋根裏の調査項目

屋根裏のホームインスペクションにおける主な調査項目は以下のとおりです。

小屋組み・構造部

構造材の著しい割れ・欠損・はがれ、鉄骨材の劣化・腐食・錆、金物の設置状況(著しい緩みなど)と著しい錆

その他

カビ、染み(漏水跡)、断熱材の設置状況、蟻害、蟻道

屋根裏調査の指摘事例

屋根裏の調査で実際に発見された指摘事例を写真付きで紹介します。

野地板の腐食

屋根の野地板に腐食やカビが確認された状況です。屋根裏では、雨漏りや著しい結露を要因として、木部の腐食などが見つかることがあります。

断熱材の設置不良

屋根裏で指摘が上がることが多いことの1つが、断熱材の設置不良です。乱雑に置かれて隙間だらけになっていることもあります。

害虫や小動物

屋根裏には害虫や小動物が入りこむことがあり、時には鳥の巣やハチの巣が確認されることがあります。また、それらの糞が大量に見つかることもあります。

構造部の金物の緩み

屋根裏では多くの構造金物を確認することができますが、その金物が緩んでいるときがあります。目視で著しい緩みを何箇所も確認できることがあります。

大量のカビ被害

木部などで大量のカビが見つかることがあります。屋根裏の換気状態が悪く湿気を強く感じるときには注意して確認した項目です。

雨漏り跡

屋根裏では雨漏り跡が発見されることが多いです。写真の状況より酷い雨漏り跡が確認されることも多く、それでも居住者が気づいていないため、木部の腐食が進行してしまっていることもあります。

ここまでに紹介した床下および屋根裏の調査項目や実際にあった指摘事例の様子から、これらのスペースの調査が大変重要なことであると理解できたのではないでしょうか。

床下も屋根裏も奥まで進入して調査することは、労力的に大変なことではありますが、重要な部位をたくさん診ることができるので、ぜひ調査してもらうようにしましょう。

しかし、調査できない住宅も少なくない

ここまでの記載内容を読んだ人なら、床下や屋根裏を調査することが重要だということは理解できたと思います。実際に、ホームインスペクションの依頼者のうち多くの割合の人が床下や屋根裏の調査を希望しているのですが、残念なことに住宅によっては、これらのスペースを調査できないこともあります。

ここでは、調査できない住宅の事例・理由を紹介します。

床下を調査できないケース

床下を調査できない住宅が実際にあるのですが、その理由は以下のいずれかに該当することが多いです。

  • 点検口がない
  • 点検口の上に容易に動かせない物がある
  • 点検口が開かない
  • 床下スペースの高さが低い
  • 床下に多くの障害物がある

点検口が無い住宅は意外とあるものです。設計者や売主が、その住宅の将来のメンテナンスについて検討していないのか疑わしいときもあります。

また、居住者が点検口の上に大きな家具等を配置してしまって、いざというときに点検しづらいこともあります。プラン上、そこに置くしかなかったという場合は、設計上の問題でもあります。

点検口があっても開けてみると、床下が狭すぎたり、配管や根がらみなどの障害物があるために、ほとんど進入できない住宅もあります。

屋根裏を調査できないケース

屋根裏を調査できない住宅も実際にあり、その理由は以下のいずれかに該当することが多いです。

  • 点検口がない
  • 点検口の位置に容易に動かせない物がある
  • 点検口が開かない
  • そもそも人が進入できない箇所に点検口がある
  • 屋根裏スペースの高さが低い
  • 屋根裏点検口の周囲に体重をかけられる箇所がない

床下と同様に点検口がないときがありますし、点検口の真下に洗濯機や大きな食器棚などがあって、そのままでは点検できないこともあります。

また、点検口を開けてみるとすぐ上に屋根があって、頭を出すこともできず、何のために設けた点検口か疑問に感じるときもありました。また、建物のプラン上、屋根裏の高さが低くて人が入れないものもありますし、点検口の周囲に梁などがなくて体重をかけられないために、屋根裏を覗くことしかできないときもあります。

床下でも屋根裏でも、点検口の位置については、実際に点検するときのことを考えて配慮した設計をしてほしいものです。

入口が点検口とは限らない

住宅の床下や屋根裏へ進入するための入り口は、設計図で点検口と表示された位置とは限りません。図面に表示されていなくても、それだけ床下・屋根裏の調査を諦めず、他に点検口代わりとなる箇所が無いか探してみましょう。

たとえば、床下収納庫は、床下点検口の代わりとなることが非常に多く、最近の住宅ならば、図面にも「床下収納兼点検口」と記載されていることが多いです。築年数が相当経過した古い住宅で、図面に「床下収納庫」とだけ記載されている場合、それが点検口を兼ねていることが多いと考えておきましょう。

また、1階に和室があれば、畳下地を釘止めしていない箇所があって、そこから床下調査をできることもありますし、収納の天井板も同じように釘止めされていなくて、そこから屋根裏調査をできることもあります。

目立たない点検口やその代わりとなうものは、現地見学時に見つけられないこともありますので、所有者に点検口等の有無と位置を聞いてみるのも1つの方法です。

構造別に床下と小屋裏の調査の必要性を解説

住宅の構造種別には、主に、木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造という3つの種類があります。建物によっては、木造と鉄筋コンクリート造の混構造というものあります。これらの構造種別によって、床下や小屋裏(屋根裏)の調査の必要性には違いがありますので、それを解説します。

木造は必要性が非常に高い

日本で最も多い住宅の構造は木造ですが、この構造の場合、床下および小屋裏において、構造木部やその構造金物を直接的に確認することができるため、調査する必要性が非常に高いです。

基礎は、他の構造でも同じように調査するので、重要性に差は出ませんが、基礎以外の土台・床組みで差があります。

鉄骨造は必要性がやや高い

基礎は木造と同様に床下で調査しておきたい重要な診断項目です。床下と小屋裏の断熱材や床下配管なども確認することができます。一方で構造材が木材ではなく、鉄骨なので、木造に比べると構造部の問題が見つかる頻度は低いです。

よって、木造に比べると必要性は下がるものの、大事な調査箇所であることに変わり無いと言えます。

鉄筋コンクリート造は必要性がやや低い(又は調査できない)

鉄筋コンクリート造の場合、床下や小屋裏のスペースがない建物プランとなっていることが多いです。その場合、そもそも調査することができません。

床下などがあるプランであっても、そのスペースが極端に狭くて(配管スペースくらいしかないなど)、ホームインスペクター(検査員)が進入できないケースが多いです。

仮にスペースが十分にあり、進入できる場合でも、調査項目がコンクリートの状態(ひび割れ・欠損など)と配管の確認程度に限定されます。ただし、これらの項目も大事な項目です。

異常より、木造や鉄骨造に比べると必要性がやや低いと言えるでしょう。

木造と鉄筋コンクリート造の混構造は必要性が高い

木造と鉄筋コンクリート造の混構造の住宅は、多くの場合、最下階(3階建てなら1階部分)が鉄筋コンクリート造で、その上が木造となっていることが多いです。

これを前提として説明する場合、1階の床下は鉄筋コンクリート造と同様にスペースが無く調査できないことが多いです。ただし、最上階の小屋裏は木造と同じですので、必要性が高いです。

よって、床下の必要性はやや低い(または調査できない)が、小屋裏の必要性は高いということです。

床下も小屋裏も大事な項目を確認できるスペースであり、ホームインスペクションは何度も利用するわけでもないですから、できれば、床下と小屋裏(屋根裏)の調査については積極的に利用する方向で検討することをお勧めします。

アネストの住宅インスぺクション
施工不具合や劣化状態を専門家が診断するサービス

執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。