ホームインスペクション(住宅診断)に必要な資格

住宅の購入や建築、リフォームの時などに利用されるホームインスペクション(=住宅診断)を行う人に必要な資格について解説します。これから資格を取得する人に向けてではなく、ホームインスペクションの利用を検討している人に役立つような記事です。

一級建築士がよいとか、二級建築士でもよいとか、ときには建築士の資格は不要だとか、いろいろなことを言う人がいるので迷うかもしれません。ここで、資格について整理しておきましょう。

ホームインスペクションに関する資格(建築士と既存住宅状況調査技術者とその他)

ホームインスペクションを行うためには、業務に役立つ資格が必要です。対象物件の条件によっては必須の資格もありますので、これらについて理解しておきましょう。

ホームインスペクション(住宅診断)とは何か?

ホームインスペクション(住宅診断)とは、住宅の建物部分について、新築工事やリフォーム工事における施工ミス(欠陥工事)や、中古住宅における劣化事象の有無を確認する調査で、主に建築士が行っています。

施工ミスや劣化事象にも様々なものがありますが、基本的には、建物の構造耐力や防水・耐久などの性能に関わる不具合が調査対象となっており、見た目の傷や汚れの調査をするものではありません。

住宅の購入時や建築時などに利用されることが多いですが、一部の不動産会社や建築業者は、インスペクションを実施することで起こりうる購入中止や補修要求を警戒して、購入検討者などによる利用を嫌がることもあります。

同じ建築士でも一級建築士がおすすめ

建築士の資格は、一級が必要なのか、二級でもよいのかという質問を受けることがあります。実はあまり知られていませんが、建築士にはもう1つ、木造建築士というものもあります。これらの資格ごとに、設計や工事監理できる建物の構造種別や規模が制限されています。

一級建築士には、構造や規模の制限がなく、全てに対応できます。二級建築士には制限がありますが、一般的な大きさの住宅であれば対応できます。木造建築士は構造が木造に限られます。

こうして見てみると、一般的な大きさの住宅なら、一級でも二級でもあまり変わらないという印象を持つかもしれません。

しかし、業務経験の実情はちょっと違います。

二級よりも一級建築士の方が、多くの業務、質の高い業務、責任ある業務を任される機会が多く、良質な経験を積む機会は二級よりも一級の方が多いです。

ただし、これには個人差があります。一級建築士の全てが同じというわけではないのです。依頼する側としては、ここが判断を難しくさせているのですが、少し冷静に考えてみると一級建築士に依頼した方がよい(または無難)だということがわかります。

それは、一級の方がよい経験を積んでいる可能性が高いことと、一級であることが二級よりマイナスになることがないということです。つまり、二級を選ぶべき理由がないですね。それぞれの条件がどうこうと考えるまでもなく、とりあえず一級建築士にインスペクションしてもらう方がよいということです。

ここで注意すべきは、資格に関わらず、住宅の設計・工事監理の経験を十分に積んできているかどうかも合わせて確認するということです。一級建築士であり、かつ十分な経験がある人がよいということです。

中古住宅なら既存住宅状況調査技術者は必須

ホームインスペクション(住宅診断)の対象物件が中古住宅である場合、一級建築士の資格と一緒に確認すべきなのは、既存住宅状況調査技術者という資格です。

宅建業法の改正により、2018年(平成30年)4月以降に中古住宅の売買に際して行われる既存住宅状況調査(=インスペクションと概ね同じ意味)について重要事項説明書で説明することになりました(実施することは義務ではない)。

この調査を行うことができるのは、既存住宅状況調査技術者です。

これは、事実上、中古住宅のホームインスペクションをするためには、既存住宅状況調査技術者の資格が必要だとされていることだといえます。誤解してはいけないのは、この資格があっても十分な技能のない人がいくらでもいるということです。この資格は必須ではあるけれど、十分ではないということです。

ただし、中古住宅であっても、何らかの不具合や欠陥の原因調査については、また異なる技能ですから、この資格にこだわる必要はありません。

その他の民間資格は不要

ホームインスペクション(住宅診断)が普及する過程で、実に多くの関連する民間資格ができました。いずれも取得はそう難しくありません。しかし、ホームインスペクションの実務に役立つものがあるのか疑問です。資格者や会員を増やした方が儲かるため、建築やインスペクションの技能に乏しい者でも取得できるような資格が多いです。

多少の学習で知識を得ても現場では役に立たないことが多いことから、結局は経験が問われる仕事です。

一級建築士として培う住宅の設計・工事監理の経験とインスペクションの研修・経験が大事です。民間資格に惑わされることのないようにしましょう。

アネストの住宅インスペクション

結局は人と組織次第

ホームインスペクション(住宅診断)という仕事は、資格だけでできるほど甘いものではありません。

新築住宅なら、一級建築士の資格を持つホームインスペクターに依頼すべきで、中古住宅なら、一級建築士と既存住宅状況調査技術者の資格を持つ人に依頼すべきなのは確かですが、この資格があっても適さない人は多いです。

住宅の経験があるか

アネストには、毎年、多くの人が「インスペクションをやりたい」と応募してきますが、それまでの業務経験を確認すると、とても怖くて採用できない人の方が多いです。

現場での経験が不足する人も多く、住宅の床下や屋根裏へ潜った経験のない人までいます。また、木造住宅の設計や監理、工事管理の経験が一切ないのに、やりたいという気持ちだけで応募する人もいました。

その人を批判するものではなく、この仕事には向かないということです。

一級建築士や既存住宅状況調査技術者の資格は必須ですが、これだけでは不十分で、その人の経験・能力が大変重要です。

人を補う組織・仕組み

そして、その人の足りない部分を補うための組織の力も非常に重要です。組織の力とは、整備された調査マニュアルや研修、チェック体制、そして組織の持つ経験・実績・調査データの蓄積です。

個々の経験が十分あるように見えても、実はそれまでの経験は、偏った経験と少しずれた知識・考え方に基づいていることが決して少なくありません。経験の量・年数だけでは判断できないということです。これを補正するのは組織の力です。

組織で補う仕組みがないと、長い間、間違った認識のままインスペクション業を続けている人もいます。経験が長いからといって、間違ったままの状態では意味がないですね。

資格だけにとらわれない判断が必要です。ホームインスペクション業者の選び方もよい参考になるでしょう。

住宅
ホームインスペクション

住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。