不動産会社が斡旋するホームインスペクションの問題点

住宅の売買に際して、不動産会社が売主や買主にホームインスペクション(住宅診断)を斡旋する機会が増えました。これは、2018年4月に改正宅建業法が施行されたことに起因するところが大きいです。

そして、不動産会社が斡旋するホームインスペクション(住宅診断)が新たなリスクとなりつつあるため、売主も買主も(特に買主のリスクが大きい)理解しておきましょう。

改正宅建業法とホームインスペクションの基礎知識

ホームインスペクションに関することで、宅建業法が改正されたのですが、そのホームインスペクションとは、建物を診断するサービスのことです。これについて詳しく知りたい方は「ホームインスペクションとは?」をご覧ください。

施行された内容を簡単にいえば、中古住宅の売買に際して、不動産仲介業者が売主や買主に対してホームインスペクション(住宅診断)のことを説明し、利用するかどうか意思確認するというものです。

売主には、インスペクションしておく方が買主への説得材料になりうることなどを説明して利用を促し、買主には安心材料となることを説明して利用を促します。一見、売主、買主のいずれにとっても良いことのように思えるホームインスペクション(住宅診断)ですが、使い方は判断を誤れば、購入後のリスクが大きく、トラブルになることも多いです。

インスペクションの斡旋の法的な根拠と内容は、「ホームインスペクションの義務化(告知と紹介・斡旋)」を参考にしてください。

不動産会社の斡旋するホームインスペクションにリスクがある理由

なぜ、不動産会社が斡旋するホームインスペクション(住宅診断)にはリスクがあるのでしょうか?

その最大の理由は実に単純なもので、以下の3点です。

  • 調査範囲・項目が限定的である
  • 極端な事象しか報告されない
  • ホームインスペクション業者のお客様は不動産会社

長年、主に買主向けにホームインスペクション(住宅診断)をしてきたアネストでは、様々な診断経験・実績から、非常に多くの項目を調査することを標準的なサービスとしております。よく指摘にあがる事象、万一のことがあれば問題が大きい点など、様々な範囲・項目を調査しているのです。

しかし、不動産会社が斡旋しているホームインスペクションの圧倒的多数は、非常に限定的な範囲・項目に絞って調査をしています。そのことを理解せずに紹介・斡旋している業者も多いです。

また、同じ調査項目であっても、極端にひどい症状は売主や買主に報告しても、極端ではなくとも補修すべき症状などを全く報告しないことがあまりに多いです。これは、買主が購入後に困ることも数多く含まれており、買主のリスクとなっているのです。

購入後にそういった問題に気づいても、不動産会社や売主は一切の責任を負ってくれず、すべて買主がリスクと負担を負うことになっています。

斡旋されるホームインスペクション(住宅診断)の内容に不足がある理由

不動産業者は何も悪意で、調査内容が不足したホームインスペクション(住宅診断)を斡旋しているとは限りません。前述したように、本来すべきインスペクションと斡旋しているインスペクションの違いを正確に理解していないことも非常に多いです。なぜなら、彼ら営業マンも建築は専門外であるからです。

ところで、なぜ不動産会社が斡旋するホームインスペクション業者は、不足ある調査をすることになったのでしょうか。

それは、最初に述べた改正宅建業法と深い関係があります。

この法律では、ホームインスペクションのことを建物状況調査と呼んでおりますが、その調査基準は国交省の告示(既存住宅状況調査方法基準)によるところとなっております。そして、この基準で規定している調査範囲・項目が既に述べた不足する調査内容なのです。

簡単にいえば、法律において、本来買主が求めたい調査を大きく省略した簡易的な診断をするよう促してしまっているのです(意図しているわけではないと思いたいですが、中古住宅の流通拡大を目的にしている国としては、買主に必要な情報を与えたと誤解させて買わせたいのではないかと勘ぐってしまいます)。

実は、新築住宅を建てる過程でも検査が入る仕組みになっておりますが、これも本当に簡易的な検査しか実施されない仕組みになっております。新築も中古も、「検査しているから安心して買える」というポーズだけ見せられていて、実態が全然伴っていないという状況です。

現実に、今の時代でも新築住宅における欠陥問題はなかなか減っておりません。

新築も中古もこの仕組みや考え方を根本から変えなければ、業界も建物もなかなかよくなりそうにありませんが、この話は記事の趣旨を脱線してしまうので今回はやめておきます。

本来、買主が求めるホームインスペクション(住宅診断)で得られる情報

本来、買主がマイホームを買うときに得たい情報は、本当にざっくりとだけ建物を診てもらって、「とりあえず大丈夫ですよ」と言ってもらいたいのではないはずです。購入後の様々なリスクを少しでも抑えるため(完全には無くせない)、細かなところまで診断した結果をできる限りに正確に知りたいはずです。

  • 購入するには危険なリスク
  • 購入した後に早急に補修すべき症状
  • 購入した後のリフォーム時などに一緒にメンテナンスした方がよい症状

こういったものを知りたいはずです。斡旋されるホームインスペクション(住宅診断)では、これらの多くが省略されたり、報告されなかったりしているわけですから、残念です。

買主や売主に報告されない具体的な症状とリスク

実際に、不動産会社が斡旋するホームインスペクション(住宅診断)では、買主や売主に報告されない症状とそれによるリスクをいくつか挙げておくので参考にしてください。

建物外部で報告されない症状

基礎のひび割れにおいて、幅0.5mm未満のものは知らされることがありません。逆にいえば、0.5mm以上あるものだけを報告すればよいことになっています。しかし、0.5mm未満でも早めに補修等の対応をすべきことはりますし、このことは建物を長持ちさせるために大事であることもあるのです。

これを知らせなくてよい基準というのも不思議なものです。

また、基礎の欠損の深さが20mm未満のものも買主や売主に黙っておくのです。たとえば、欠損が15mmもあれば構造部分の欠損ですから、早急に補修した方がよいと判断することが多いですが、これを買主などに知らせないわけです。

いや、知らせないというのも少し表現が違います。15mmもの欠損があるにも関わらず、その調査結果では劣化事象がないと報告されるので、実態を知らない買主は大丈夫な物件だと誤解してしまうのです。

ほかにもいくつもあります。雨樋の状況は基本的には見てもらえませんが、雨漏りにも大事なリスクがあります。たとえば、掴み金物のぐらつきが原因で将来的な雨漏りリスクが高まることがあるのです。

外構で報告されない症状

斡旋されるホームインスペクションでは、外構は全く診てもらえませんが、重要な症状が見つかることもあるので要注意です。

地面や犬走りの著しい陥没や割れは、地盤沈下のサインになっていることがありますし、隣地境界にある塀の著しい劣化やぐらつきは、怪我や損害賠償請求されるリスクを抱えています。しかし、これらは一切対象外にされています。

床下・小屋裏で報告されない症状

床下では、土台や大引きといった非常に大事な部位を確認することができ、それを留める金物の状態まで確認することができます。しかし、金物が緩んでいても報告されることはありません。小屋裏で梁や柱の金物が緩んでいても同じです。これらは、建物の構造耐力に関係しうる大事な問題であるにも関わらず報告されないのです。

床下では、カビや異常な湿気が確認されることもありますが、これも報告されず、小屋裏や床下で数多く指摘される断熱不良も報告されません。これらは、快適な住環境を保てるかどうかに関係が深い調査項目です。

各居室等で報告されない症状

規定されている調査方法基準でも、床や壁の傾きを計測することになっておりますが、報告されるのは極端に大きな傾きだけです。その時点で極端に大きな症状でなくとも、そのまま進行すれば問題が大きくなることがあるにも関わらず、そういったリスクが説明されることはありません。

階段などの手すりがぐらついていても無視されるし、サッシなどの鍵の施錠に問題があっても確認すらされません。棚の開閉不良、設備の動作不良なども購入後に補修するにはコストのかかることばかりですが、全てチェックもしてもらえません。

挙げていくときりがないので、この辺でやめておきます。ここで挙げた事例は、報告されないことのごく一部ですが、もう少し詳しく知りたい人は、「売主・不動産会社のホームインスペクション(住宅診断)の注意点」に詳しく事例を挙げているので参考にしてください。

ホームインスペクション業者のお客様は不動産会社

最後にもう1つ、大事な買主が知っておくべきリスクを説明します。それは、不動産会社に斡旋されるホームインスペクション業者のお客様は買主ではなく、不動産会社だということです。たとえば、買主が調査料金を負担していたとしても、ホームインスペクション業者にとっては買主よりも不動産会社の方がはるかに大事なお客様なのです。

その理由も単純です。買主は、そのときしか利用してくれませんが、不動産会社は斡旋し続けてくれるからです。不動産会社の顔色を窺わなければならない立場というのは、辛いものです。不動産会社にとって不都合なことを買主へ報告すれば、仕事をもらえなくなる恐れがあるからです。

不動産会社にとって不都合なこととは何でしょうか?

買主が購入意欲を損なうような調査結果です。

そこで、気づかなかったふり、隠ぺいといったことが起こりうるのですが、最も多いのは微妙な症状を買主へ報告しないという選択です。見つかった症状によっては、判断が微妙なものというのはよくあることです。完全な第三者の立場(アネスト)ならば、微妙なものであっても、きちんとその旨を報告します。

しかし、そういったものを報告していては、仕事を失うリスクがある立場なら、なかったことにされることがあるのです。

売主が実施するホームインスペクション(住宅診断)のリスク

買主がホームインスペクション(住宅診断)を利用しようとしたとき、不動産会社から息のかかった業者を斡旋しようとすることが多くなっていますが、これによるリスクはここまでに述べた通りです。

そして、売主がホームインスペクション(住宅診断)を実施済みだと説明を受けることもありますが、そのインスペクションも不動産会社が斡旋したものであることが非常に多い(ほとんどすべてが斡旋によるもの)ため、結局は同じ状況であり、買主にはリスクがあるものなのです。

斡旋されるホームインスペクション業者は不動産会社の関連会社も多い

第三者による調査結果こそが大事なホームインスペクション(住宅診断)だったはずなのに、いつの間にか、不動産会社やハウスメーカーの関連会社、子会社などによって実施されることが非常に増えてきました。最近では、社名に不動産会社の社名の一部すら入っていないけど、出資しているという事例もあり、見分けるのは難しくなってきています。

出資関係がなく、提携関係を結んで仕事量で手なづけるパターンはもっとわかりづらいです。

こういったホームインスペクション業者は、そもそも住宅を売るために業務をしているわけですので、誰の都合が一番であるかは考えるまでもありません。

対策は、斡旋された業者ではなく、買主が自ら探して依頼することです。実にシンプルな対策ですが、非常に有効な策でもあります。本当に安心できる住宅購入のためのホームインスペクションの依頼方法は買主が自ら探すべきなのです。

中古一戸建て住宅診断(ホームインスペクション)
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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。