ホームインスペクション(住宅診断)を利用する人が多くいますが、利用後には、インスペクション業者から調査報告書(レポート)が送られてきます。
このレポートは、購入判断や修繕箇所の検討などに有効だとされていますが、初めて利用する人にとってはわからないことばかりでしょう。
住宅を購入する前に知っておきたい「ホームインスペクション」の調査報告書について、記載内容や活用法をわかりやすく解説します。インスペクション業者によって、報告書の内容が異なるため、業者選びにも重要な要素であることも紹介しています。
ホームインスペクション(住宅診断)とは?
ホームインスペクションは、住宅診断とも言い換えることができるもので、基本的には建物の診断サービスを指しています。インスペクションで何をするのか、また、なぜこれを依頼する価値があるか説明します。
建物の劣化状態や施工状況のチェック
ホームインスペクションとは、住宅の建物について、中古住宅なら劣化状態を、新築なら施工状況をチェックするサービスで、建築士などの資格を保有する専門家(=ホームインスペクター・住宅診断士)が行っています。主に、住宅を購入したり建築したりする人が依頼していますが、中古住宅の売買に際しては売主が利用することも少なくありません。
専門家による第三者の診断の価値と必要性
現場で診断するホームインスペクターは、その調査結果に客観性を持たせることが大事であるため、売買取引に関して利害関係がない立場の人が行うことが一般的です。第三者の診断であることに意義があり、その調査結果に価値があると言えます。
売りたい人の見解ではなく、第三者の見解であれば、依頼者も購入判断などに活用しやすいですね。ホームインスペクションには第三者性が必要だということです。
調査報告書とは?住宅診断の“結果通知書”の役割
ホームインスペクションを利用すると、診断業者(ホームインスペクター)から調査報告書、つまりレポートが提出されます。このレポートについて基本的なことを解説します。
インスペクションの調査報告書とは?
ホームインスペクションの調査報告書とは、インスペクターが現地で調査した結果をまとめた書類で、依頼者に提出されるものです。これを見ることで、何を調査して、どのような結果であったか理解できるものです。
調査報告書は業者によって違いが大きい
ホームインスペクションの調査報告書(レポート)に記載される内容は、インスペクション業者や利用するサービスによって大きく異なります。どこに頼んでも同じというわけではないため、インスペクション業者を選定するときには、報告書のサンプルを確認するなど、慎重な比較検討をお勧めします。
驚くほど簡易なレポートしか提出していない業者もあれば、詳細な調査結果をまとめた報告書を提出する業者もあります。簡易なものでは、調査結果がわからず、依頼した意味が無いと感じる人も少なくありません。
不具合箇所の指摘と掲載
調査報告書には、不具合箇所の指摘内容が掲載されます。その症状などによって、該当箇所の写真を掲載することも多いです。不具合が見つかった箇所だけを掲載する場合と、問題なかった箇所も掲載する場合があり、どちらのタイプであるか依頼する前に報告書のサンプルで確認しておくとよいでしょう。
中古住宅では建物状況調査の結果の概要だけ提出されるケースも
中古住宅のホームインスペクションは、宅地建物取引業法において建物状況調査と呼ばれています。この調査については国土交通省から出ている告示で調査基準があるのですが、そのなかで建物状況調査の結果の概要を書面にして提出することになっています。
結果の詳細だけではなく、概要を簡単にまとめたものを出すというわけで、それ自体は良いのですが、インスペクション業者によっては、この概要しか提出していないことが確認されています。
依頼者が、その概要だけを見てもどういった調査結果であったか理解することは難しく、十分な意義があるとは言えません。依頼する前に、結果の詳細までレポートしてくれるか確認してください。
英語で作成した報告書を提供することもある
外国人が日本の不動産を購入することもあるため、ホームインスペクションを利用する人も外国人ということもあります。英語圏の人にとって、日本語の報告書を読み解くのは難しいですから、英語で書かれた報告書があれば便利ですね。
2004年からホームインスペクションを行っているアネストでは、英語版の調査報告書も提供しています。また、中国版にも対応しています。必要な人は、日本語以外の報告書に対応しているかどうかも確認しましょう。
報告書に記載される主な項目
調査報告書に記載されることが多い主な項目を紹介します。
基礎・外壁・屋根
建物の外部では、基礎や外壁、屋根の調査結果が記載されます。構造耐力や防水上の懸念があるひび割れ・欠損・隙間などの症状の有無を確認して、記載しています。一般的には、屋根に登って行う調査ではなく、地上やベランダから確認できる範囲に限られます。
床下の基礎・土台・配管・断熱材
床下の調査結果では、基礎や土台のひび割れ・欠損、配管のはずれ・ぐらつき、断熱材の設置状態などを記載しています。中古住宅のインスペクションでは、断熱材を診ていない業者もあるため、その場合は断熱材については記載されないことになります。
床下で漏水(雨水の浸水や配管からの漏水など)やシロアリ被害・蟻道が見つかれば、これも記載されます。
参照
屋根裏(小屋裏)・天井裏
屋根裏(小屋裏)・天井裏の調査結果では、柱や梁などの構造部分のひび割れ・欠損、断熱材の設置状態、断熱材、雨漏りなどを確認して記載しています。床下と同じく、中古住宅では断熱材を診てくれない業者もあります。最上階の屋根裏に限らず、1階の天井裏(2階の床下)についても確認可能な住宅であれば、その結果が記載されます。
床・壁の傾き
床と壁については、傾きを測定して、その結果を記載します。特に問題ないレベルの場合、必ずしも測定結果の数値を全て記載することはなく、代表的なもののみを記載することも多いです。この傾斜測定は、各居室で行うことが一般的ですが、一部の業者は一部の居室でのみ計測することもあります。
住宅設備(建具・給排水・電気)
住宅設備については、窓や室内扉を含む建具の動作チェックや給排水管(水道を利用できれば排水テストを行う)の調査結果を記載します。電気は詳細な確認とは言えないですが、照明器具が付いている箇所の点灯確認くらいはすることが多いです。
インスペクションの報告書の活用方法
ホームインスペクションを利用すれば提出される調査報告書ですが、それが一体、どのような役に立つのか紹介します。
報告書を参考に住宅購入の判断をする
ホームインスペクションを利用する人のうち、最も多い目的は、住宅購入の判断材料とするためです。調査報告書は、その判断材料の1つとして有効です。部位ごとの調査結果を確認して、わかりづらいことはホームインスペクターに質問・相談して、判断材料とするとよいでしょう。
購入後のリフォーム・修繕計画に活用する
中古住宅の購入後、リフォームをしようと考えている人は非常に多いですが、その際に、悪いところを一緒に修繕しようと考えるのは自然なことです。インスペクションの調査結果を参考にして、修繕箇所を検討しましょう。予算をオーバーする場合などには、インスペクターに相談して、修繕の優先順位を聞いてから検討するのもよいでしょう。
リフォームや修繕工事の費用は、ホームインスペクション業者がきちんと出すことは難しいので、リフォーム業者から見積りをとるとよいでしょう。その際、1社だけに絞らず、複数の業者から相見積もりをとって検討することをお勧めします。
欠陥が見つかったときの契約解除・損害賠償金請求の交渉
売買契約を締結してからホームインスペクションを利用する人もいます。そのような場合で、インスペクションの結果、著しい欠陥や重大な劣化事象が見つかった場合、その調査結果を基にして売主と契約解除や損害賠償金の請求について交渉することがあります。必ずしも、調査報告書が交渉に有効に働くとは言えないですが、活用できることも少なくはありません。
インスペクションのレポートに関するよくある質問(FAQ)
ホームインスペクションを依頼する前や利用した後に、調査報告書(レポート)に関してよくある質問とその回答をまとめました。
Q:報告書はいつ頃、提出されるか?
ホームインスペクションの調査報告書は、調査日から5日以内に提出されることが多いです。建物の規模や調査結果などの条件次第でもっと長くかかる可能性もあるため、具体的な物件の状況を提示した上でインスペクション業者に問合せましょう。
Q:報告書の提出前に調査結果を聞くことができるか?
基本的には、調査当日に現地に立会いすることで、担当のホームインスペクターから調査結果を聞くことができます。結果を聞いた後に質疑もできるので、立会いがお勧めです。まあ、立会いしない場合、電話などで調査結果の概要を聞くこともできます。
Q:報告書を見て調査結果が悪いと住宅を買うべきではないか?
見つかった問題(欠陥工事や重大な劣化事象)によっては、修繕工事などに多大なコストと期間を要することがあり、また修繕が容易ではないこともありうるため、買うことをお勧めできないことがあります。ただし、インスペクション業者が買うべきではないと判断することはなく、依頼者が調査結果を見て判断することになります。
調査結果を見て、購入を断念する人が少なからずいるのが実態です。
Q:報告書を売主や不動産会社にも共有すべきか?
売主や建築会社が、不具合に関して是正対応する場合、調査報告書を共有するのは有効な手段です。補修や減額、契約解除、損害賠償請求などの交渉に利用するときも、共有すると役立つことがあります。また、中古住宅の売買時に行うホームインスペクション(建物状況調査)では、重要事項説明書に調査結果の概要を添付する必要があるため、共有するも必要があります。
Q:報告書はプリントした書面で提供されるか?
報告書は、書面で提供される場合とPDFファイルなどのデータで提供される場合があります。また、その両方で提供されることもあります。将来、また閲覧することもありうるため、PDFファイルでももらっておき、綺麗な状態で保存しておくことをお勧めします。
まとめ:安心できる住宅購入のために報告書を活かそう
住宅の購入に際して、ホームインスペクションを利用して、その調査結果を確認することは、購入判断に役立つことから、お勧めできるもことです。実際の調査現場では、構造耐力に影響するようなひび割れや欠損、腐食、雨漏り、床下漏水など様々な問題が見つかっています。
インスペクションと調査報告書(レポート)を活用することで、リスクを抑制して、安心できる住宅購入に役立ててください。
執筆者

- 編集担当
- 2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。