新築や中古住宅を購入するとき、もしくは自宅を売却するときに行われるホームインスペクション(住宅診断)ですが、これを自分でできるかどうか真剣に検討する人もいます。
インスペクションを専門家に依頼すれば、安いプランでも5万円以上はしますし、建物の規模やオプション利用次第では10数万円になることが多いですから、自分でインスペクションすることで費用を節約したいと考えるのも無理はないことです。
しかし、建築の知識や経験が十分にない素人でもホームインスペクションを自分たちだけでできるのか、疑問・不安を持つ人も多いでしょう。そこで、自分でインスペクションをできるかどうかについて解説しますので、参考にしてください。記事の途中で、セルフチェック用のチェックリスト(PDFファイル)をダウンロードすることもできます。
ホームインスペクション(住宅診断)は自分でできるか?
まず、最初にホームインスペクション(住宅診断)を自分でできるかどうかについて回答しておきますと、それはどのレベルまで求めるかによります。
インスペクションを適切に実行するためには、建築知識と経験、整備されたマニュアルなどが必要となりますので、専門家と同じレベル、もしくはそれに近いレベルで一般の人が実施したり、判断したりすることは不可能です。
たまに、「プロがやっても目視できる範囲の調査なら、自分がやっても同じ」と言う人がいますが、そもそも見るべきチェックポイントやよくある症状、その症状の現れ方などを知らないと思いのほかわからないことが多いものです。
ホームインスペクターをしている専門家が見ればすぐにわかることでも、何度か現地見学していたお客様が全く気付いていなかった症状というのもよくあることです。
よって、プロレベルか、それに近いレベルで一般の人が実施するのは、まず無理だと言えます。
ただし、売主側から第三者による専門家のホームインスペクションについて許可を得らえないときや契約・引渡しなどに間に合わないなどの理由で、自分自身できることだけでもしておいて、後から機会を設けて専門家に診てもらうという方法も考えられます。
こういった場合は、あまり過信しない範囲において、自分でやるのもよいでしょう。
住宅のセルフチェックで最低限、確認すべきポイント
本来のホームインスペクションでは、調査時に目視できる範囲とはいっても、建物外部(ベランダを含む)、室内、床下・小屋裏(屋根裏)など、広範囲に確認をするわけですが、住宅の買主や売主自身でセルフチェックするのであれば、その全ての範囲は調査することは難しいことを理解しておきましょう。
その難しい範囲とは、床下と小屋裏(屋根裏)です。
床下も小屋裏も釘などで怪我をするリスクがありますし、小屋裏では天井を突き破って落ちて大怪我をするリスクまであります。よって、点検口があれば、そこから覗き込んで見える範囲までの確認とすることをお勧めします。
住宅の建物をセルフチェックするならば、以下のポイントは確認するべきでしょう。
建物外部
- 基礎の著しいひび割れ・欠損
- 外壁材の継ぎ目のひび割れ・隙間
- サッシ周りのシーリングの劣化
- 外壁を貫通する配管周りのシーリングの劣化・隙間
- ベランダ(バルコニー)の床や立上り部分のひび割れ・欠損
- ベランダ(バルコニー)の排水口のつまり
- 軒の染み(漏水跡の疑い)
- 屋根材の著しいずれ・割れ(目視できるなら)
建物内部
- 壁・天井の著しいひび割れが多くないか
- 壁・天井の染み(できれば収納内部も)
- サッシ周りの染み(漏水跡の疑い)
- トップライト(天窓)がある場合、その周りの染み(漏水跡の疑い)
- 扉・引き戸などの著しい動作不良
- 床・壁の著しい傾き
床下
- 基礎の著しいひび割れ・欠損
- 断熱材の落下
- 漏水(または漏水跡と思われる染み)
- 配管のはずれ
小屋裏(屋根裏)・天井裏
- 野地板等の染み(漏水跡の疑い)
- 断熱材の設置状態
- ダクトのはずれ
比較的、確認しやすいことを中心にセルフチェックしておくポイントを紹介しました。ただし、床下や小屋裏の配管・ダクトは見えないこともありうるものです(見られることが多いですが)。小屋裏は、点検口の位置などの条件次第では、長い脚立や梯子がないと確認できないこともあります。
ちなみに、床下や小屋裏を自分でチェックしない場合でも、チェックするための点検口があるかどうかは確認しておきましょう。後日、専門家(ホームインスペクター)へ依頼するときに伝えることができるからです。
セルフチェックリストPDFの無償ダウンロード
自分自身でセルフチェックするなら、現場で役立てられるチェックリストの存在が不可欠です。
専門家でないと確認・判断できない項目を除いたものですが、建築知識等が無い人でも確認できそうなことをリスト化したので、ご利用ください。
自分でインスペクションするために必要な道具
自分でホームインスペクションをするときに必要な道具、あれば便利な物を紹介します。全てを用意できなくても仕方ないので、可能な範囲で準備してはいかがでしょうか。
- スマホ(カメラ機能)※またはデジタルカメラ
- 脚立(身長等によるができれば3段以上のもの)
- 間取図(見つけた症状等を書き込むため)
- 水準器(簡易的に床・壁の傾きを計測できる)
- 鏡(屈まないと見ずらい箇所を見やすくできる)
ちなみに、専門家がホームインスペクションをするときには、他にレーザー対応の水平器や水分計、打診棒などを用いますが、慣れない人がこれらを適切に使用し、適切に判断するのは難しいことが多いです。
見つけた症状の判断が難しい。それがプロとの違い
ホームインスペクションの調査項目は、インターネットでいろいろと調べることができますし、よくある指摘事例も参考情報が見つかるでしょう。当サイトでも公開しているので、以下を参考にしてください。
ただし、調査項目などを理解したつもりでいても、本当に難しいのは、見つかった症状(症状らしきものを含む)について、それが本当に問題あることなのか、早急に補修等の対応を要することなのか、重大な瑕疵なのかといったことを判断することです。
仮に、不動産会社や建築会社から、「それくらいはよくあることだ」「大した問題ではない」などと説明されても、それが本当かどうかわかりづらいですよね。そこが、プロと素人の最大の違いです。
自分でやったホームインスペクションのデメリット
自分でやるホームインスペクションについてのデメリットも把握した上で、自分自身で行うのか、またはプロに依頼するのか判断してみてはいかがでしょうか。考えられるデメリットを紹介しておきます。
調査結果に対して自ら不安になる
知識と経験に裏付けられていない以上、調査した結果に対して自分を持てず、後から不安になることが考えられます。徐々に不安になっていき、「やはりプロに頼んでおけばよかった」と感じることもあるでしょう。
診断途中に不安になる
調査を始めてしばらくしてから、どんどん不安になっていくことが想定されます。たとえば、立ち会っている不動産会社や売主などの目が気になって、さらにはわからないこと、迷うことが出てきて、舞い上がってしまって結局何もできなかったという声もあります。
そのときは、引渡し後に専門家に依頼することで、専門家にフォローしてもらう方法もあるのですが、本当は引渡し前や契約前に実施することが望ましいです。
調査漏れ、判断ミスが少なくない
調査項目を事前に洗い出ししておいたものの、現地で調査をやってみると出来ないことが多かったという声も聞きます。これは、調査という作業に慣れていないと起こりうることです。
また、見つかった症状等をどう判断するかが難しいことは前述のとおりです。せっかくその部位を確認したのに、見落としや判断ミスがあってはもったいないですね。
床下・小屋裏(屋根裏)が危険
床下や小屋裏(屋根裏)の内部は、大事な項目を確認できるので、ぜひ調査しておきたいものですが、慣れない人が内部へ進入することは前述したとおり、本当に危険です。建物の状態を判断する上で大事な箇所なのに、危険で入らない方がよいという状況ですから、自分でできることが限定的であることは理解しておきましょう。
売主自らのインスペクションを買主は信用しない
あまり該当するケースはないですが、中古住宅の売主が自らインスペクションしているケースがありました。売主としては、自分自身で建物の状態をできる限り把握することにより、売却した後に買主から契約不適合責任(補修や損害賠償の請求など)を求められるリスクを少しでも抑えるという意義があると思われます。
しかし、素人が実施した調査結果をもって、買主に安心して買ってもらうという効果は望みづらいですね。そういう意味で、あくまでもセルフチェックは、目的も限定されるということを理解しておくべきでしょう。
やっぱり専門家への依頼をおすすめ
ここまでに紹介したように、自分でやるホームインスペクション(住宅診断)もしくはセルフチェックは、調査できることが限定され、判断が難しく、後で不安になることもあることなどを考えれば、できれば、専門家へ依頼することをおすすめします。
どうしても、契約前や引渡し前にできないときには、自分自身でできる限りのことをしておき、その上で引渡し後などに専門家へ依頼することを考えるとよいでしょう。その場合でも、できれば、家財道具などを入れる前、入居する前に依頼することをおすすめします。
執筆者
ホームインスペクションのアネスト
住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。