ホームインスペクターは建築士であるべき

2000年代前半から徐々に普及してきたホームインスペクション(住宅診断)は、今では大変多くの人に利用されていますが、普及に伴って1つの問題が顕在化してきました。それは、ホームインスペクション(住宅診断)を実施する人(ホームインスペクター等と呼ばれる)の質の問題です。

今回は、ホームインスペクターの人的な問題点とどういった人がホームインスペクターにふさわしいのか、まとめてみました。前提として、コミュニケーション能力に優れた人というものがありますが、今回の話の中ではこの点は当然のこととして触れず、知識や経験、技能という点についてまとめています。

ホームインスペクション(住宅診断)の実施者に法的制限はない

建物の劣化具合や施工不良の調査を行うホームインスペクション(住宅診断)といえば、建築系の専門的な知識や経験が必要であろうと誰もが想像できることですね。専門家であるべきにも関わらず、意外と実施者に資格等の制限がないということをご存知でしょうか。

実施者をホームインスペクター、住宅検査員と呼ぶ

ホームインスペクション(住宅診断)を行う人のことを最近ではホームインスペクターと呼ぶことが増えています。他にも住宅検査員や住宅診断士などの呼称が使われることもあります。

アネストでは、特にホームインスペクター等の呼称を使用しているわけではないですが、これらは民間団体・会社などが使用している呼称や資格として存在しています。

資格の制限がなく誰でもホームインスペクション(住宅診断)をできる

ホームインスペクション(住宅診断)は、2000年代になって日本でも普及し始めるようになり、その後、多くの人が利用する状況になってきましたが、当初は国や自治体が利用促進したものではなく、民間企業が独自の考えで始めたものです。

特に法的な拘束があるわけではないため、特定の資格を保有している必要などはなく、誰でもホームインスペクション(住宅診断)業務を始めることはできます。

ただし、中古住宅の売買に際して実施する建物状況調査というインスペクションは、既存住宅状況調査技術者か既存住宅現況検査技術者であることが条件になります。後者の既存住宅現況検査技術者は建築士以外の建築知識に乏しい人でもなれるため、既存住宅状況調査技術者に担当してもらいましょう。

知識・経験が無くてもできるという怖さ

誰でもできると聞けば、なかなか怖い話のように思われるかもしれませんが、さすがに建築関連の知識や経験が全くないまま業務をされている人はいないでしょう。現場ですぐにわかってしまいます。但し、知識や経験が十分でないにも関わらず、業務をされている人はいます。

ホームインスペクション(住宅診断)を依頼する人は、建築関連の専門家ではありませんから、担当者の知識・経験が不足していたとしても、なかなか気付きづらいものです。これを狙ってどうかどうかわかりませんが、知識・経験が不足した自称専門家もいることを理解して警戒しておく必要はあります。

誰がホームインスペクターにふさわしいか

次にホームインスペクターにふさわしい人とは、どういった人であるか考えてみましょう。この分野の専門家となり得るのはどのような人物でしょうか。

必要な知識や経験とは?

ホームインスペクション(住宅診断)を適切にこなせる人に必要な知識や経験をもっている人が良いのは言うまでもありませんね。その知識とは、建築基準法等の関連法規、新築や増改築(リフォーム等)の施工技術、新築や増改築の設計・工事監理、現場管理、そして、これらに関する現場の実情に関することです。

机上で学んだことだけでは、インスペクションをするために必要な知識や経験を得ることは絶対にできません。

法規に関することは机上で多くを学ぶことができますが、実際の確認申請業務などを通して経験できる実情もあります。施工技術も実際に現場で多く見たり聞いたりしなければなりません。設計や工事監理なども同様です。

そして、一般的な考え方ならば、「こうすべきだ」「こうあるべきだ」ということでも、建築業界の現場の実情がどうであるかを知っておくことでアドバイスできることなどもあります。現場経験が不足する人では、実情を考慮したアドバイスをできず、トラブルをただ大きくしてしまうだけのことも多いでしょう。

建築士の資格があるからできる業務経験が活きる

上で挙げた知識や経験というものを得られる資格が建築士です。設計や工事監理を責任ある立場で行うためには、建築士資格がないとできません。建築確認申請もそうです。

建築士資格があるからこそできる業務経験が、ホームインスペクション(住宅診断)をしたときに見つかった症状・問題点などに関して、その現場の背景や理由などを予測するときに活きることは多く、これによる見解やアドバイスを受けられることは、依頼者にとって大きなメリットになります。

民間資格は乱立していて信頼度が不足がち

建築士は国家資格ですが、関連ありそうな民間資格は多数あり乱立している状況です。建築・不動産業界におけるインスペクションブームとでもいうべき状況ですが、資格取得は難しいものではなく、また資格試験でもホームインスペクション(住宅診断)の技術的に必要な知識・経験以外の比重を高めることで、必要な知識・経験の不足する営業系の人でも容易に取得できることもあります。

ホームインスペクターは建築士であるべき

建物を診断するホームインスペクターは、最低限の資格として建築士を持っているべきだと言えます。法的には保有していなくとも実施できますが、適切に業務を遂行するためには、必要な資格です。

ちなみに、建築士にも一級建築士・二級建築士・木造建築士という種類がありますが、木造住宅のインスペクションに必要な知識・経験は二級建築士や木造建築士でも基本的には得られます。

やっぱり二級より一級建築士の信頼性が高い

ホームインスペクション(住宅診断)を依頼するときは、建築士資格を持っていることを最低条件として、経験も考慮して選ぶとよいでしょう。アネストでは最上位と言える一級建築士である者で、且つ必要な経験を積んでいる者のみを採用し、現場研修も行った上で業務を担当しています。

どの建築士がよいかという判断のときに、二級建築士でもよいという意見もありますが、一級建築士ならではの重要な経験を積めていない二級建築士が多いため、やはり一級建築士の方がよいです。一級でも経験不足の人はいますが、二級の方がよい理由はないですから、あえて二級を選ぶ理由はありません。一級の人に担当してもらいましょう。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。
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住宅の購入・新築・リフォーム時などに、建物の施工ミスや著しい劣化などの不具合の有無を調査する。実績・経験・ノウハウが蓄積された一級建築士の建物調査。プロを味方にできる。