ホームインスペクションの依頼を検討している人、または依頼した人からインスペクション業者へ寄せられる質問のなかで、調査に使う必要書類に関することは多いです。そもそもどのような資料を用意すべきなのか?誰から入手できるのか?用意できないと調査できないか?といった質問です。
インスペクション業者から提出を求められる書類とその内容、入手方法、必要書類についてよくある質問と回答などを紹介しますので、依頼するときに確認してください。
ホームインスペクションとは?定義と役割と必要性
ホームインスペクションという言葉を聞く機会が増えましたが、まだまだその基礎知識を知らない人は多いです。そこで、インスペクションの必要書類の解説の前に、その定義、役割、必要性を紹介します。
ホームインスペクションの定義
ホームインスペクションとは、住宅を対象として建物の状態を調査する専門的なサービスで、新築住宅なら施工品質(欠陥工事をしていないかなど)をチェックし、中古住宅なら劣化状態をチェックします。
ホームインスペクションの役割
欠陥・施工ミスがあれば、売主や建築会社に補修を要求することができ、劣化状態を確認すれば補修計画の検討や購入判断に役立てることができます。つまり、インスペクションは購入検討や補修要求などをするときに大事な役割を果たすものだということです。
インスペクションがなぜ必要なのか?
住宅には、大きな施工ミスや著しい劣化が存在するケースはたくさんあり、それを知らずに放置していると、補修・メンテナンスに多大なコスト負担が生じることがあります。住宅を買ったり所有したりするということは、単に資産を持つというだけではなく、リスクを負うということでもあるのです。
そのリスクを少しでも抑えるため、ホームインスペクションが必要です。
購入前や引渡し前などのタイミングでこれを利用することにより、危ない物件の購入を中止したり、早期に補修を求めたりできるからです。
ホームインスペクションで必要な書類とは?
ホームインスペクションを依頼した時に必要となる書類・資料を具体的に紹介します。各書類の説明と取得する方法についても説明します。
インスペクション業者によって求める書類が異なる
ホームインスペクションを依頼したとき、インスペクション業者から提出すべき資料、つまり必要書類を提示されますが、その種類は業者によって違いがあります。業者によって、必要最低限度のものだけを求めるケースと、プラスαの書類も求めるケースがあるため、差異が生まれています。
インスペクションを実施さえできればよいという考え方なら、必要最低限度のものだけでもよいかもしれませんが、依頼者としてはプラスαの書類から確認できる事項で大切なことがあるなら教えて欲しいですよね。業者選びに際しては、求められる必要書類から、こういったところも見極めるとよいでしょう。
実績豊富なアネストに依頼するときの必要書類
インスペクションの必要書類について、具体的なものを実績豊富なアネストが求める資料を例にとって解説します。新築と中古住宅で多少の違いがあるため、2つに分けて紹介しています。
新築住宅の必要書類
- 住宅地図(※)
- 平面図(間取りを確認できるもの)(※)
- 立面図
- 敷地配置図
- 地盤調査報告書
- 地盤改良工事の施工報告書(地盤改良している場合のみ)
- 建築確認申請書・確認済証
- 検査済証(検査時点では未取得の場合あり)
中古住宅の必要書類
- 住宅地図(※)
- 平面図(間取りを確認できるもの)(※)
- 立面図
- 敷地配置図
- 確認済証・検査済証・確認台帳記載事項証明のいずれか
- 建物の登記事項証明書
- 地盤調査報告書
- 地盤改良工事の施工報告書(地盤改良している場合のみ)
以上が必要書類の一覧です。アネスト以外の業者では、これらのうち、(※)印が付いたものだけを求める業者もありますが、多くの場合、これが必要最低限度のものです。
それでは、それぞれの書類についてもう少し説明しておきます。
住宅地図
住宅地図は、ホームインスペクター(検査の担当者)が現地へ行くために必要なものですので、場所さえ確認できればどのような地図でも大丈夫です。たとえば、Google Mapで具体的な場所をプロットして提示したり、不動産会社が用意した地図を提示したりしても構いません。
平面図(間取りを確認できるもの)
建物の間取りを確認できる図面です。平面図があればベストですが、すぐに用意できない場合は、不動産会社が販促資料として作成している簡単な間取図でも代用できます。SUUMO(スーモ)やHomes(ホームズ)などの不動産ポータルサイトに間取図が掲載されている場合は、そのURLを提示するのも1つの方法です。
ただし、将来のメンテナンスのことを考慮して、平面図を入手しておく方が望ましいです。
なお、古い中古住宅で図面が残っておらず、不動産会社が販売促進用の間取り図を作成していないときは、自分で簡単なものを作成し(手書きでもよい)、提出することも考えましょう。細部は正確でなくても役立つでしょう。
立面図
立面図とは、建物の外観を水平方向から見た図面です。Googleなどで「立面図」を画像検索すれば、すぐに確認できるでしょう。いずれの図面・資料も画像検索することで、どのような書類であるか確認できるので便利です。試してください。
1つ前に紹介した平面図や立面図は、ホームインスペクターが現地入りする前に凡その建物形状を把握することで、調査前の準備(ざっくりとした調査の流れなどの検討や報告書作成の事前準備)に役立つものです。
立面図が無い場合、建物全体の外観写真が役立つこともあります。
敷地配置図
敷地配置図とは、対象物件の敷地内のどの位置に建物が建っているか(配置されているか)を確認できる図面で、単に「配置図」と記載していること多いです。建物の配置だけではなく、凡その境界位置がどのあたりにありそうか確認することができますので、越境の可能性などを検討するときの参考資料になることもあります。
ただし、境界・越境の確認は、地積測量図の方がより役立ちやすいです。
地盤調査報告書
地盤調査報告書は、建物を建築し始める前に地盤調査会社が実施した地盤調査の結果をまとめた書類です。新築住宅のインスペクションの際は、売主または建築会社が保有しているはずですので、提出してもらいましょう。中古住宅の場合、売主が新築当時の地盤調査報告書を紛失していて入手できないことの方が多いです。
地盤改良工事の施工報告書
地盤調査の結果、地盤が弱い場合には、地盤改良や補強工事をしていることが一般的ですが、これを実施している場合には地盤改良・補強工事の施工報告書があるはずです。新築住宅で改良工事を実施している場合は、売主や施工者から入手できることが一般的ですが、一部の業者は提出を拒むことがあるようです。
中古住宅の場合は、売主が紛失していて提出できないことが多いです。
地盤や補強工事の状況を知ることは、住宅の購入判断などの参考になることもあるため、入手可能であれば提出してもらってください。
建築確認申請書・確認済証
建物を新築したり、一定の増改築をしたりする際には、役所(委託先の機関を含む)に建築確認申請という手続きをする必要があり(一部の地域を除く)、その時の申請書類が建築確認申請書です。役所側でその確認作業をした後に発行されるものが確認済証です。
この書類は、建築基準法で定められているもので、法規にのっとって手続きされた書類から、所在地・面積・構造などの正確な情報を得ることができるので、ホームインスペクションの診断当日までに提出すれば、この正確な情報を基に報告書を作成してもらうことができます。
検査済証
建築確認申請をした建物が完成した後に、完了検査を受けてから発行される書類が検査済証です。法的手続きにのっとった建物である証となる大事な書類ですので、新築住宅ならば必ず受け取るようにしてください。中古住宅の場合は売主から引き継ぐことが理想ですが、売主が紛失していて入手できないことが多いです。
確認台帳記載事項証明
確認台帳記載事項証明(書)とは、中古住宅のホームインスペクションを依頼するときにのみ提出を求められるものです。前に説明した建築確認申請書・確認済証・検査済証のいずれかを提出できるなら、この書面は提出不要です。それらを提出できないとき、役所でこの確認台帳記載事項証明書を入手して提出しましょう。
ただし、確認台帳記載事項証明書は、建物の建築時期と自治体によっては、データが残っておらず、入手できないこともあります。必須の書類ではないので、入手不可の場合は提出できなくても問題ありません。
また、自治体によって書類の名称が微妙に異なっているので、注意してください。
建物の登記事項証明書
登記事項証明書は法務局で入手できるものですが、通常は不動産会社にお願いすれば、提出して頂くことができます。販売する前に物件情報や所有者の確認を目的として既に入手していることが多いからです。また、不動産会社であれば、オンラインで登記情報をすぐに入手できるようにしていることが一般的です。
建物の登記事項証明書は、ホームインスペクション業者が建物の登記情報(所有者の名義を含む)を確認して、報告書の作成に役立てることができます。
ホームインスペクションで使った資料は依頼者も保管すべき
ホームインスペクション業者へ提出する書類は、その業者が業務で役立てるために求めているわけですが、いずれも買主や所有者にとっても大事な書類です。よって、提出するついでに、依頼者も手元に保管しておくことをおすすめします。
図面については、平面図や立面図、敷地配置図以外のものも入手できるなら入手して、一緒に保管しておきましょう。
中古住宅においては、多くの図面を入手できるかどうかは、売主が保管しているかどうか次第ですが、新築住宅においては売主(建売の場合)や建築会社(注文建築の場合)から入手できるはずです。提出を依頼するときは、「設計図書一式を提出してください」とお願いするとよいでしょう。
これらの図面は、将来の補修やメンテナンス、さらにはリフォームの際に役立つことが期待できます。逆に、これらの図面が無いと補修やリフォームの際に困ることもありえるのです。
必要書類に関するよくある質問とその回答
ホームインスペクション時に必要となる書類・資料に関して、依頼者からよくある質問とその回答を紹介します。
必要書類が不足するとインスペクションできないか?
提出を求められた必要書類を揃えることができず、不足した場合、ホームインスペクションを実施することができないのか?と心配する人は少なくありませんが、不足していても実施することが可能です。書類が揃っていることで、インスペクションと直接関係ないことでアドバイスを受けられることがあり、メリットとなりますので、可能な範囲で用意するとよいでしょう。
いつまでに用意する必要があるか?当日の持参でもよいか?
必要書類をいつまでに用意すべきか聞かれることは多いです。平面図と地図は遅くとも診断日の前日までに、他の資料は当日でも問題はありません。ただし、早めに提出できるなら、提出しておきましょう。
資料を不動産会社からインスペクション業者へ送付してもらってよいか?
必要書類・資料を不動産会社やハウスメーカーからインスペクション業者へ直接送付してもらってもよいか?と聞かれることは少なくありません。インスペクション業者側としては問題ないので、直接送付してもらっても大丈夫です。
直接送付する方が楽だというメリットはあると考えますが、依頼者の手元にその書類が残らないことになるため、不動産会社などから依頼者にも同じ書類を送付してもらうよう手配しておくとよいでしょう。
古い資料でもよいか?
必要書類を提出する際に、古い資料でもよいか?と聞かれることもあります。古くても、きちんと読み取ることができる状態で、且つ、現状と変更がなければ問題はありません。仮に、間取り変更する前の平面図しか入手できないといったときは、それを提出しつつも、どこを間取り変更しているか説明しておくとよいでしょう。
ホームインスペクションに必要な資料に関するまとめ
ホームインスペクションを依頼するとインスペクション業者へ提出を求められる必要書類について説明しました。売主次第では入手できない書類が多いことも理解できたことでしょう。いろいろな書類があるなかで、少なくとも平面図(または間取図)と地図が必要なことと、できれば他の資料も提出する方がよいことを理解しておきましょう。
書類は、インスペクション業者にとって必要だというわけではなく、依頼者にとっても大事な資料となりうるので、大切に保管するようにしましょう。
執筆者

- 編集担当
- 2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。