住宅を購入するとき、購入したいと思った物件の敷地内に擁壁がある、または隣や裏に擁壁があるので、心配だと感じることがあります。擁壁が崩れてしまって、自分の住宅や隣地などに被害が出てしまっては一大事ですから、心配するのは当然です。
一方で、住宅購入時に際して、新築でも中古物件でもホームインスペクション(住宅診断)を利用する人が多いですが、そのインスペクションを依頼すれば、擁壁も調査してもらえるのではないかと考える人もいるようで、調査費用のお見積もりなどの段階で、「擁壁も一緒に診てもらえるか?」と質問を受けることがあります。
そこで、主に住宅を対象として、擁壁に関する基礎知識やその重要性を解説した上で、ホームインスペクションを依頼すれば、一緒に調査してもらえるかどうか説明します。
擁壁とは?擁壁の基礎と重要性を知っておこう
擁壁は、「ようへき」と読みます。住宅を買うなら、この擁壁について、基礎知識くらいは抑えておきましょう。特に傾斜地・丘陵地では、擁壁が多いので、知っておくべきことだと言えます。
擁壁とは?(擁壁の種類や役割)
擁壁とは、崖や盛土(もりど)といった高低差のある土地の斜面が、土の圧力(土圧)によって崩れるのを防ぐために構築される構造物です。
斜面地を宅地に造成・開発したい地域では、区画ごとに段々になっていることが多いですが、そういった住宅街を見たことがある人は多いでしょう。各土地の境界や道路との境界付近に高低差ができることがあり、そこを擁壁で土圧を抑えているわけです。
住宅地だけではなく、山間部をドライブしていると、道路沿いに大きな擁壁を目にすることも多いでしょう。
擁壁にはいくつか種類があり、鉄筋コンクリート造やブロック造、石造などが見られますが、構造種類によって強度や安全性が異なります。
擁壁は本当に重要
斜面地や崖地で土砂崩れが起こってしまうと、そこにある建物だけではなく、人命にも影響が出る可能性があります。擁壁の上側は、土砂崩れと一緒に崩れてしまう可能性があり、下側は崩れてきた土砂によって潰されるなどのリスクがあるため、重要な役割を担っていることがわかりますね。
擁壁は本当に大事な役割を担っているわけですので、該当する住宅を購入しようとするときに心配するのは無理もないことです。
知っておきたい擁壁に関する法律と条例
擁壁に関しては、法律や条例などで規定されていることがありますので、紹介します。
建築基準法の第19条4項
建築基準法の第19条4項において、「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。」と規定されています。
つまり、がけ崩れなどで被害を受ける可能性があるなら、擁壁などの措置を講じる必要があると記載されているわけですが、ちょっと具体性にかけるので、これだけでは判断しづらいですね。
高さ2m超の擁壁は工作物の建築確認申請が必要
建築基準法では、高さが2mを超える擁壁については、工作物の建築確認申請が必要となっています。ただし、宅地造成等規制法や都市計画法の許可を得ている場合は、一部のケースを除いて不要となっています。
建築確認申請が必要な擁壁ならば、完了検査を受けているはずですので、その検査済証を提出してもらいましょう。
がけ条例(高さ2m超の擁壁の場合)
建築基準法において、自治体が安全上、必要な制限を加えることができるとしていることもあり、多くの自治体において、条例(通称、がけ条例と言われる)によって、高さ2mを超える高低差があるなどの場合、一定の条件を満たす擁壁の設置、または、がけと建築物の間に一定の距離をとることを義務づけています。
高さ2m以下なら安全なのか?
条例では、高さ2m超の場合に制限を設けているので、2m以下なら安全だと考える人もいますが、実はそうとも限りません。2m以下であっても崩壊するリスクはあるからです。
2m超の場合は自治体で擁壁の条件も制限しているので、一定のレベルを保ったものを構築している可能性を考えることができますが、制限のかかっていない2m以下の高さの場合、たとえ擁壁を設置していても、安全な者か確認されていないことが多いです。
たとえば、1m以上のブロック造の擁壁(土留め)が、土圧に耐えられるか怖いケースは考えられます。建築物と擁壁までの距離なども考慮すべきなので、高さと構造種類だけで用意に判断すべきではないことを知っておきましょう。
ホームインスペクションで擁壁はチェックしない?
ホームインスペクション(住宅診断)を依頼すれば、擁壁も一緒に診てもらえるか?という問いに対しては、原則はノーですが、簡易的に診てもらえることもあるとの回答になります。その詳細を解説します。
そもそもホームインスペクションとは?
2000年代になってから日本でも普及し始めたホームインスペクションは、今では、住宅購入時に当たり前のように利用されるようになりました。
このインスペクションは、基本的には、建物本体を対象とした調査・診断であり、外構部分のうち多くの範囲が調査対象に含まれていないことが多いです。外構とは、門扉・フェンス・ブロック塀・アプローチ・カーポートなどです。
玄関ポーチは、建物本体と一緒に診断することも多いですが、上にあげた外構は対象外とするインスペクション業者が多いです。
擁壁は建物本体ではないので、原則、調査対象外
擁壁は、建物本体ではないため、原則として、ホームインスペクションの調査対象外となっています。擁壁という構築物と住宅の建物は、インスペクターにとっても専門性が異なる部分が多いので、対象外となるのもやむを得ないでしょう。
診てくれるインスペクション業者もある(アネストなら簡易チェックに対応)
しかし、全てのホームインスペクション業者が、外構や擁壁の調査をしないわけではありません。条件付きではあるものの対応しているケースもあります。
アネストでは、全てのホームインスペクションサービスに含まれるわけではないですが、目視で簡易的なチェックをしています。擁壁の内部構造の状態まで確認することはできないですが、表面的に著しく心配される症状が出ていないか確認するものです。
擁壁の簡易チェックポイント
擁壁のある住宅を購入しようとするなら、最低限、チェックしておくべきポイントを紹介します。
目視でひび割れ・はらみ等をチェック
目視で、擁壁に著しいひび割れや欠損、はがれ、はらみ(膨らみ)の有無を確認してください。細かなものを気にしても仕方ないですが、著しい症状がないか確認しましょう。
また、水抜き穴の有無を確認しましょう。水抜き穴は、地中に浸透した雨水などを排出するために必要なもので、これが適切に設置されていないと、擁壁にかかる負担が大きくなり、いずれは崩壊する可能性も考えないといけません。水抜き穴があっても、詰まっていて排水できない状況のときも要注意です。
擁壁の種類
擁壁には、前述したように、鉄筋コンクリート造やブロック造、石造などの種類があります。基本的には、鉄筋コンクリート造が安心できますが、古い時代の擁壁は、ブロック造や石造のものも多いです。まずは、鉄筋コンクリート造かどうかを確認しましょう。
修繕・補強履歴の確認
古い擁壁の場合、どこかのタイミングで修繕または補強されていることがあります。修繕や補強されているのであれば、その際の所有者から修繕工事の履歴や施工報告書を提出してもらいましょう。記録や報告書が無いこともありますが、施工者が適切に対処しているならば、何か残っている可能性も考えられます。

擁壁をチェックする際は、もっと詳細な情報が掲載されている国土交通省の「我が家の擁壁チェックシート(案)」をご参照ください。
執筆者

- 編集担当
- 2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。