注文建築の建設工事請負契約の注意点

工務店やハウスメーカーに新築一戸建て住宅の建築工事を依頼する場合(つまり注文建築で家を建てる場合)、建設工事請負契約を結ぶことになります。難しいことばかりで、難解だと感じる人が多いですが、のちのトラブルになる可能性を少しでも抑えるため、少し時間をとって学んでおきましょう。

建設工事請負契約の基本的な注意点

最初に、建設工事請負契約を結ぶ上で基本的な注意点を2つご紹介します。当然のことなのですが、この通りに契約前後の流れを進めない工務店やハウスメーカーもあるため、注意が必要です。

建物のプランが決まってから契約を結ぶ

建設工事請負契約は、どのような家を、どのような条件で建ててもらうかを明確にするものです。それだけに、どのような家を建てるのか契約前に決めておかなければなりません。

契約前にラフプランを作ってもらい、それから何度か打合せを重ねていき、建物のプランを明確にしていきます。そのプランは仕様書や平面図、立面図などの設計図書に反映されていかなければなりません。そうしてプランが固まってから建設工事請負契約書に互いに署名・押印して契約が成立するわけです。

いろいろな発注者(施主)の話を聞いていると、間取りすら明確でないにも関わらず、契約だけ先にしてしまっていることがありますが、契約に縛られてしまっているため、プラン調整による価格交渉なども不利な状況で、思い通りに家づくりが進まないということがよくあります。

工事見積書を確認して金額に合意してから契約を結ぶ

建設工事請負契約は、どのような条件で建ててもらうかも明確にすべきものですが、その条件の1つが請負代金です。これが大事な条件項目の1つであるのは説明するまでもありませんね。

いろいろな建設工事請負契約書を見ていると、請負代金が未記入であったり、仮の金額で契約していたりと様々なケースを目の当たりにします。金額も明確でない状況で契約と言えるのかと考えさせられますが、こういうケースは前述のプランが未確定のケースと重複することが多いです。

プランが決まっていないので請負代金も決まらないということです。どのような家を建てるのかも、重要な条件も決まっていないのに契約というのもおかしな話ですね。

建設工事請負契約書の他に約款があるか

建設工事請負契約書をチェックするとき、最初に確認したいポイントは、契約書と一緒に約款があるかどうかです。第1条、第2条、第3条と続いていく条文の記載された書面です。

約款において、施工基準であったり契約解除時の対応であったりと大切なことを多く取り決めていくのですから、建設工事請負契約書と一緒にあるのは本来ならば当然のことなのですが、街の小さな工務店のような会社の場合には、あって当然のはずの約款も用意していないということがあります。契約書しかないため、確認できるのは基礎的な情報のみですから、後々、トラブルになっていく可能性は高いです。

約款を用意もしない会社と契約するのは、もちろん危険ですから考え直した方がよいでしょう。

建設工事請負契約書のチェックポイント

建設工事請負契約書と約款の両方があることを確認しましたら、次に建設工事請負契約書の内容について確認していきましょう。この契約書には以下の項目が明確であることを確認しなければなりません。

  • 注文者と工事請負者
  • 工事監理者
  • 建設工事場所
  • 工事請負代金
  • 着工日・完成日・工期
  • 引渡し日

これらの項目について少し説明をしていきます。

○注文者と工事請負者
注文者とは施主のことです。契約の当事者を明確にするのは当然ですね。

○工事監理者
工事監理者とは、設計図書通りに建築しているか、施工ミスをしていないかといったことを現地で確認する重要な役割をこなす人です。工務店の従業員がすることもあれば、外部の建築士に委託する場合もあるでしょう。

但し、工事監理者が実際には現場に来て監理業務を適切に実行しない工務店やハウスメーカーが大変多いため、契約前に実態を聞いておくとよいでしょう。返答次第では、第三者の住宅検査を入れるといった対応も検討が必要です。

○建設工事場所
どこに建築するかを明確にするというもので、当然の記述ですね。

○工事請負代金
請負代金を明確にするのも当然のことですね。必ず、契約書には見積書も添付して頂くようにしましょう。

○着工日・完成日・工期
工事に着手する日(着工日)や完成予定日を明確にするのも大切なことです。注文者(施主)がそれほど急いでいない場合であっても、工務店側の都合でどんどんスケジュールを後回しにされては困りますね。着工日と完成日を明確にすれば自然と工期もわかります。

○引渡し日
完成日が明確なら引渡し日は記述する必要があるのかと疑問を持つ人もいますが、これは必要な情報です。

アネストの住宅インスペクション

約款のチェックポイント

最後に約款のチェックポイントについて説明します。とはいえ、約款は大事な書面ですから、以降に挙げる点のみを確認すればよいというわけではありません。ここで挙げる項目は最低限度のものだと理解しておき、書面には隅々までしっかり目を通して理解するようにしましょう。

  • 施工の技術基準
  • 工程表
  • 設計図書に適合しない施工
  • 第三者の損害
  • 完成検査の実施
  • 工事内容・請負代金・工期の変更
  • 違約金
  • 契約解除
  • 瑕疵担保責任と保証

これらの項目についても説明していきます。

※瑕疵担保責任は、2020年4月1日より施行された改正民法により、契約不適合責任に変わりました(2020年4月8日:追記)。

施工の技術基準

請負契約を結ぶ前には、仕様書や図面を確認することを述べましたが、これらに表示されていないことも多数あります。建築工事が始まって現場を見学に行くと「この工事内容で本当のよいのだろうか?」と疑問を抱く人は少なくありません。

そういったときに判断の拠り所とする基準があれば、よい判断材料になり、互いに揉めて嫌な思いをすることも減ることでしょう。その施工上の技術的な基準をどういったものにするのか、明確にしておくことが望ましいと言えます。

規模の大きなハウスメーカーなどでは、その会社の基準を設けていることがあり、それを基準とすることがありますが、どういった内容であるか先に示してもらえるとよいですね。

会社の基準以外では、建築基準法や関係法令を遵守すること、日本建築学会の仕様書を基準とすること、もしくは住宅金融支援機構の住宅工事仕様書を基準とすることなどを取り決めておくのもよいことです。明確な基準がないようであれば、こういったものを技術基準として要望するのも1つの方法です。

建築途中で施主が依頼する住宅検査を利用する際にも、こういった基準があれば図面に記載されていない問題について対処するときの判断基準となりえるので有効なものになります。

工程表

着工から完成に至るまでの工事の流れを記載した工程表は重要な書面です。しかし、請負契約を結ぶ時点では工程が未定であることも多いため、契約時にこれを受領できないことはよくあることです。その場合、請負者が工程表を作成し、着工までに注文者に対して交付することを約款で明確にしてもらえると安心です。

設計図書に適合しない施工

仕様書や平面図、立面図などの図面(設計図書)と現場の状況が適合しないことがあったときの対応について取り決めておく必要があります。

請負者のミスで適合しないのであれば、当然ながら補修等の対応が必要ですし、これにより工期延長となれば、その負担の協議も必要です。そして、状況確認のために検査を要するときには請負者の負担で検査を実施できる内容であればなおよいですね。

第三者の損害

請負者のミス等によって、建築現場の周囲の人などへ損害を与えてしまった場合、請負者の負担で対応することを明確にしておく必要があります。

完成検査の実施

工事の全てが完了して建物が完成すれば、注文者による検査を行う機会が必要です。この検査により補修等の必要な箇所があれば補修してもらってから、再検査を行う必要もあります。注文者による完成検査は当然のことなのですが、一部の工務店では要求しなければこの機会を設けていないこともあるため確認しておきましょう。

また、建築基準法に基づく完成検査を受けて、完了検査済証の交付を受けることも明記しているか確認しましょう。一部の工務店では、今でも完了検査済証が交付されないような違反建築の建物を注文者に引渡そうとするケースもありますから、注意してください。

以前に完成検査へ第三者の立会いを希望した際、契約書に記述していないからという理由で拒否された事例がありました。一般的にはそのような対応をする建築会社はありませんが、事例はあるので契約前に第三者の立会いを入れることを伝えておいた方がよいでしょう。

なお、建築工事の途中で施主が依頼する住宅検査は完成検査とは完全に一致しませんが、これを利用する場合には請負契約前に施工者から了解を得ておく方が無難です。

工事内容・請負代金・工期の変更

工事が始まってから、何らかの都合により工事内容を変更することがあります。例えば、注文者の希望でプランの一部を変更することや、自然災害の被害によって工期が大幅に遅れることなどです。

そういった場合の責任負担や請負代金の調整についても約款に記述しておく必要があります。

違約金

請負者のミス等によって工期が大幅に遅れて、契約書に明記した引渡し日までに引渡しできないということがあります。そういった場合の違約金について取り決めておかないと、問題がおこってから違約金の交渉をしても難航することでしょう。

契約解除

どういった場合に契約解除できるのかを明記しておく必要があります。契約解除については、注文者からの解除だけではなく、請負者からの解除についても明確にしておくものです。

瑕疵担保責任と保証

法規で定められた10年保証がありますが、それとは別に契約不適合責任(2020年3月までは「瑕疵担保責任」という)や工務店・ハウスメーカーが自社で決めている保証期間・基準というものがあります。これらが明記されているかどうかも確認しましょう。口頭で説明を受けた保証が約款には何も記載されていないという事例もありました。

建設工事請負契約書も約款も普段は関わることのないものですから、みなさんにとってはチェックするのは大変かもしれませんが、契約後のトラブルを未然に防ぐためにも全て読んで確認しておきましょう。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。