住宅・不動産業界の知人のアドバイス

住宅購入者の方のなかには、住宅・不動産業界に勤める友人や知人がいて、その方にアドバイスをもらうこともあります。なかには、運良く身内が業界関係者ということもあります。大きな買い物をする上で、たいへん心強い存在となりますね。

しかし、この知人や身内である業界関係者のアドバイスが、逆効果となるケースも少なくありません。信頼して相談した結果、かえって損害を受けて後悔する人もいますので、注意してください。

ここでは、住宅・建築には専門性が高いことが多くて1人でサポートしきれるものではないことを解説した上で、知人などに相談して逆効果となるケースを紹介します。

住宅・不動産・建築を一人でサポートは困難

住宅を買う人が、誰かに住宅購入や建築に関することを相談する上で、必ず知っておきたい前提があるので、説明します。

住宅や不動産、または建築と一言で言っても業界は広く、それぞれの専門分野だけではわからないことが多いものです。

ここでは、相談する人の職種や資格などによって、期待できることを紹介します。ただし、同じ職種・資格・経験年齢であっても、それまでに経験した内容や、個人の努力などによって、大きな差異があることを理解しておきましょう。

住宅の売買営業担当

あなたの友人や身内が住宅の売買営業を長くしている営業マンである場合、不動産売買の取引経験・知識について期待することができます。重要事項説明書や売買契約書のこと、取引の流れについて相談するには、良い相手です。

その人次第では、住宅ローンや住宅購入・建築と関係する税金について相談することもできますが、この点は営業マンでも知識レベルに大きな差異があり、適切に相談対応できないレベルの人も多いです。

営業マンの多くは、残念ながら建築知識は不得手です。建築用語も基本的なことしか理解できない人も多いですし、設計図も基礎的なものしか読み取れない人が多いです。よって、多くの場合において、建物性能や施工不具合・劣化事象の相談をする相手としては不足があるでしょう。

一般的には、自社分譲の販売だけをしてきた営業担当よりも、売買仲介をたくさんしてきた人の方が詳しいことが多いです。相談相手がどういった営業をしてきたのか、それとなる聞いてみる必要もあります。

なかには、賃貸仲介や賃貸管理の仕事をしている人に相談する人もいますが、不動産売買の経験がない人に相談しても間違った知識を基にアドバイスされるリスクがより高いので注意が必要です。

設計者・建築士

建築士の資格を有する設計者は、設計や監理などが主な仕事ですので、建築物に関する知識・経験において期待できます。建物性能(断熱性・省エネルギー性・構造など)について相談するのに向いています。施工不具合や劣化事象の相談に適切に対応できるかどうかは、その人の経験次第です。

ただし、建築士といっても色々な人がおり、住宅を主に扱ってきた人もおれば、ビル・マンションなどの大規模建築物を主としてきた人もいます。住宅の経験が浅い人に相談して大規模建築の感覚のままアドバイスされたことをベースに、不動産会社や建築会社と交渉などをするとかえってトラブルが大きくなってしまうことがあります。

また、設計ばかりであまり現場に出ていない人もいます。設計も大事ですが、現場経験がないと机上の空論では適切なアドバイスに向かないこともあるのです。

よって、相談する前に、住宅の設計・監理の経験が豊富な人か確認しておく必要があります。

現場監督・大工などの職人

現場監督や大工などの職人は、現場仕事ですから、現場で行う作業については詳しい人が多いです。しかし、意外と現場の仕事も細かく細分化されているため、自分の担当領域以外のことは専門性が低いものです(その人が悪いのではなく、仕事の関係上、そうなりやすい)。

現場監督は、個人の能力・経験値の差が大きいため、相談相手次第でマイナス影響を受けるリスクもあります。真面目で、長く仕事を続けている人なら、ぜひ相談したいものです。

ファイナンシャル・プランナーや税理士

ファイナンシャル・プランナーや税理士にも、得意分野が人それぞれです。特にファイナンシャル・プランナーは、それまでの経験内容によっては、簡単な資金計画の相談くらいしかできないこともあります。税理士は、住宅の売買に関わる税金の相談をするにはよい相手ですね。

以上のとおり、職種・経験などによって、得意分野がはっきりとわかれていますので、相談するテーマと相手に違いがあると、むしろ相談しない方がよかったということもありえるので、注意しましょう。

様々な住宅検査(ホームインスペクション)やアドバイスなどのサービスを行うアネストでも、一人で全てのアドバイスやサポートができるものではありません。

良かれと思ってアドバイスしてくれた内容であっても、それが事実と異なることもあれば、間違った方向へと導くこともあるものです。

アネストの住宅インスペクション

友人のアドバイスを信じて失敗した事例

たとえば、新築住宅を計画していたある人に、

「友人がハウスメーカーで営業職をしていて、その友人より『ハウスメーカーが委託している検査(※)は、うちの現場の職人も嫌がるぐらい厳しい検査をする』って言っていたから大丈夫です」

と言う人がいました。

※建築確認検査機関による建築基準法に基づく中間検査・完了検査と、瑕疵保険の検査のこと。

ハウスメーカーは、外部検査を利用していることが一般的ですが、その検査が厳しいものだから大丈夫だという趣旨のお話です。

これと同じお話を何度も伺ったことがあります。しかし、そのうちの一人の方は、実際に工事が始まると不具合が発生したため、途中から弊社に依頼されたのですが、既に見えない箇所に不安が残ってしまったのです。

これと似た事例は多いのですが、お客様のご友人が話すことを間違いとは言いにくく、こちらとしても辛いところです。もちろん、その友人に悪意はなく、単なる無知だったわけなのですが、それを信用した人にとっては大変ですね。

営業担当者の多くは、建築現場に関して詳しくないですし、建築確認検査機関が行っている検査内容や質について、きちんと把握している人はほとんどおりません。現場の人(職人)でも担当の工事種別が違えば専門外です。

本当に信用できる人というのは、自分自身の専門分野が何で、専門ではないことが何か自覚していて、専門外のことについては、「わからない」「専門外だ」とはっきり言える人です。

大工のお父様の正直な助言

「父が大工ですが、大工工事以外は自信がないと言っているので、検査して欲しい」

という方もいらっしゃいました。この父こそ信頼できる人だと感じます。

大工といえども住宅建築の全てに精通しているわけではありません。

たとえば、基礎工事は専門外ですから、基礎の配筋検査やコンクリート打設時の立会い検査を依頼して、大工工事は父に診てもらうということも検討するとよいでしょう。

これと少し似た話も紹介します。

注文建築の家の施主が、建築中に現場を見学していたときに、その場にいた電気設備工事業者と雑談しました。その際、その業者は「構造躯体のことは専門ではないのでわからない」ときちんと前置きした上で、「普段から見ている工事に比べて断熱材の施工が雑すぎると思うので、一度、インスペクションを利用してはどうか?」と助言を受けたということです。

電気設備工事業者としては、専門外ではあるものの、いつもと違う何かを感じとっていたわけで、それを施主に教えてくれたわけです。現場へインスペクションに入った結果、確かに断熱材の施工不良がいくつも確認されました。

謙虚な人の話ほど役立つ可能性がある事例だと言えます。

友人の不動産会社・建築会社に依頼して後悔する事例

もう1つ、知人・友人との間で問題となる事例をご紹介します。

住宅の新築やリフォーム工事を知人や友人に依頼される方もいらっしゃいます。もしくは、近所の知り合いに依頼されることもあります。

こういった場合、取引の進め方に問題があったり工事に不具合があったりしたときに、「知人・友人なのでクレームや補修要求を言いにくい」という方が非常に多いです。今までに何度、同じお話を伺ったかわかりません。

何度か、「友人には言えないので、内緒で見に来てほしい」と相談されたこともありました。お客様が所有する住宅ですから、友人の了解なく住宅検査をすることは可能です。しかし、そこまで遠慮しなければいけない状態であれば、大きな問題(施工不良など)が見つかったときにどうするのでしょうか。

この知人・友人が善意であるだけでなく、知識的にも技術的にも信頼できる人(または会社)でない限り、むしろ全く知らない会社に依頼した方が良い結果を生みやすいのではないかと感じています。

善意だけでは、良い家造りはできません。

たとえ知人・友人といえども、しっかり相手を見極める必要があります。悪意でなくともトラブルになれば、しこりが残り、人間関係まで悪化してしまうものです。

不動産・建築業界の人が不動産・建築のプロとは限らない

長年、住宅業界で働いていてよくわかったことは、不動産・建築業界にいる人たちの多くは、不動産・建築の専門家ではないということです。専門家と言える人の方が少ないのではないでしょうか。それは、何も勤続年数が不足するからというわけではなく、勉強不足だからです。

何度も何度も不動産を売ったり買ったり繰り返す人は稀です。資産家が投資用不動産の売買・建築を繰り返すうちに、非常に詳しくなる人はいますが、大部分の人はそうではありません。それだけに、不動産・建築業界の人にとっては、お客様の知識と経験が圧倒的に不足するため、多少の知識があれば何とか仕事ができてしまう面があります。

これが、勉強不足の人たちを生んでしまう要因になっていると思われます。

もちろん、本当によく勉強されていて、詳しい営業マンや建築技術者もいます。そういった人が担当になってくれればよいのですが、そこは運任せの部分もありますし、知識と経験のない人がそれを見極めることはあまりにも難しいでしょう。

友人だから、身内だからというだけでは、安心できないことを理解しておきましょう。

執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。