新築住宅の工事が遅延して引渡し日に間に合わないときの注意点

新築住宅の建築に際して、最初に着工するときには予定どおりであったにも関わらず、建築工事が進んで行く段階で徐々に工事が遅延していき、建物の完成時期が遅れてしまい、新築住宅の売買契約や工事請負契約で定めた引渡し日に、対象の住宅を引渡しできないということがよく起こっています。

つまり、工事が始まった後に予定よりも工事が遅れているケースがあるということです。

完成後・引渡し前に第三者が検査する内覧会立会い・同行(竣工検査・完成検査)サービスの前後で、本当に多くの人から引渡し延期に関するご相談を受けてきたので、工事遅延が多いことを強く感じています。

工事遅延のために引渡し日が契約で取り決めた日に間に合わないとき、売主や建築会社から延期を告げられた時点で、いくつかの注意すべき点について対応を考えなければなりません。この対応をミスした後には、金銭トラブルや欠陥工事などに悩まされることがありますから、よく理解しておく必要があります。

そこで、着工後の工事遅延と引渡し遅れが起こる原因と買主や施主が注意すべき点について解説します。

着工後の新築住宅で工事遅延・引渡し遅れが起こる原因

着工後に工事が遅延している住宅

新築住宅の着工後に工事が遅延し、さらに引き渡し時期まで遅れることがある原因について紹介します。ここでは着工後の工事遅れについて記載していますが、着工そのものが遅れる問題については、「新築住宅の着工が遅れたときのリスクと遅延被害を減らすための対策」をご参照ください。

着工自体が遅れる原因と着工後に工事が遅れる原因には、重なる点も多いですが、異なる点もあります。

予定していた下請け業者や職人を手配できなくなった

建築会社は、着工する前の段階で、どの工程にどの下請け業者に発注するか、どの職人を手配するかといったことを考えています。小さな工務店なら、いつも頼んでいる業者にお願いすることが多いですし、中規模以上の工務店なら、複数の候補から各現場に応じて手配する業者を選んでいくことになります。

しかし、工事が始まってから、予定していた下請け業者からスケジュール通りに現場に入れないと言われたり、断られたりするケースがあるのです。その下請け業者が請けている他の仕事との兼ね合いや、元請けの建築会社との関係性の悪化・信用の失墜など、いろいろな原因によって起こりうることです。

建築資材の大幅な納品遅れ

住宅・建築業界では、度々、建築資材や住宅設備の納品遅れが問題となっています。納品が遅れてしまうと、現場での工事作業自体ができないため、結果的に工事が遅延し、その遅延レベルによっては、完成や引渡しも遅れるわけです。

建築資材や設備については、その全てではないですが、海外からの輸入に頼っている部分も多いため、グローバルな問題(国家間の事情や摩擦・戦争・急激な経済の悪化など)によって輸入が一時的に、且つ大幅に遅れることがあります。輸入の大幅な遅れは、現場への納品遅れにつながります。

また、国内の自然災害によって、工場を稼働できないことや物流の乱れによって納品が遅れるということもあります。

設計ミスや施工ミスの発生とその対応に時間がかかる

着工し始めてから、建築会社側のミスが確認されることがあり、それによって遅延することもあります。たとえば、以下のような類のミスです。

  • 設計図のとおりでは、現場で細部の収まりに問題があることが判明し、プランの一部を変更する必要が確認されたとき
  • 施主の注文内容と設計図に相違が見つかったとき
  • 施工ミス(施工不良)が見つかったとき

このような設計上または施工上のミスが発覚したとき、その対応方法の検討や調査、建築会社と買主や施主の相談・交渉などにより、多くの時間を使うことがありますが、その間、工事を止めることとなって、工事が遅延していくわけです。

近隣からの苦情

工事を進めていると、近隣の住人などから、建築会社などへ苦情が入ることがあり、その内容次第では一時的に工事をストップすることがあります。

たとえば以下のような苦情です。

  • 工事中の騒音
  • 工事により発生する粉塵
  • 工事現場の職人の態度・言動で近隣住民ともめた
  • 工事車両が近隣住民に迷惑をかけた

ときには、近隣住民の方が言い過ぎではないかというトラブルもあるのですが、建築会社側に問題があることも少なくありません。

竣工検査・内覧会立会い
新築の引渡し前の竣工検査に専門家を同行

工事が遅延したときの書類上の注意点と確認すべきこと

工事請負契約書と売買契約書

新築住宅の工事が着工後に遅延し始めたとわかったとき、その買主や施主が、書類上および契約上のことで注意すべき点や取るべき対応について解説します。

引渡し日を契約書で確認する

着工後に工事が遅延していると確認した段階で、まず、当初予定していた引渡し日がいつであるか確認しましょう。状況を把握しないことには対応を検討しようがないからです。

契約対象の住宅の引渡し日は、契約書に明記されているはずです。建売住宅を購入したのであれば売買契約書を、注文建築で建てたのであれば工事請負契約書を見れば明記されているはずです。具体的に、「○月○日」と記述していることもあれば、「残代金の支払いと同日とする」と記述して、別の欄に残代金の支払日を記述しているということもあります。

契約前の時点で確認しておくべきことですが、契約後の人もチェックしておきましょう。引渡し日について、営業担当者から口頭で聞いた日程のみを覚えているという人もいますが、契約書には別の日が記述されていたということもあります。必ず、契約書を見て確認してください。

このとき、完成予定日についても一緒に確認して把握しておきましょう。

延期後の引渡し日を書面で確認する

売主もしくは建築会社より引渡し日の延期について打診があったときには、必ず、その理由を確認しなければなりません。売主や建築会社の責任によることで工事遅延であるかどうかは、最初にはっきりさせておくべきことです。これが後の交渉で重要になることもあるからです。

理由が曖昧であったり、よく理解できなかったりするときには、納得できるまで丁寧な説明を求めてよいです。引渡し遅延は大事なことですから、遠慮せずに確認をとってください。

また、ここで重要なことは延期後の日程を書面で確認することです。引渡しの遅延は、買主や施主にとっては入居日(引越し日)の遅れや現在の住居の退去手続きに関連ある重要事項であり、確実な引渡し日・入居可能日を早めに知っておく必要があります。

また、更なる遅延を防ぐためや更なる遅延の際の責任追及のためにも、書面で明確にしておくことは大事な対策なのです。

契約上の引渡し日に遅延したなら、違約金の請求を検討する

引渡し日とは契約において取り決めていることです。その引渡し日に引渡しが間に合わないということは、契約違反にあたる可能性が出てきます。売主や建築会社の責任による工事遅延が原因であれば、売主側の債務不履行となり、違約金の対象となりうるのです。

違約金については、あらかじめ契約において取り決めていることが多いです。後から損害額を算出するにも、利害関係のある両者が損害額の算出で容易に合意できないことは契約する前からわかっていることですから、予め決めておくことが一般化しているのです。

また、債務不履行を理由として契約解除という流れになることもありますが、多くの場合、買主側も簡単に契約解除できる状況ではありませんから、余程、長期間の遅延でもない限りは、実務上、契約解除になることはありません。

多少の遅延である場合には、売主(または建築会社)と買主(または施主)が話し合って引渡し日の遅延に合意することが多いです。その際、違約金の一部を支払うことで合意することもありますし(買主からすれば違約金を割引してあげるような形)、違約金なしで合意しているケースも多いです。

工事遅延により建物について注意すべきこと

工事が遅延している建物

工事が遅延したことによって、建築現場、つまり建物に関して心配されることがあるため、その注意点を紹介します。

突貫工事による施工ミスに注意する

新築工事が遅延して引渡し日が間に合わないときに強く心配されることは、施工品質の低下です。工事が遅れて完成予定日や引渡し予定日に間に合いそうに無い状況になれば、突貫工事が行われることは多いです。強引な工事が行われることや複数の種類の下請け業者が同時に現場に入って混乱状態になることもあり、現場が雑になりがちです。

買主や施主の立場としては、突貫工事を強いるようなプレッシャーのかけ方は、むしろマイナスに作用することも多いので、十分に注意したいところです。

急いでもらうとしても、しっかり施工品質の確保のことにも言及して注意を促すことは必須の対応でしょう。

引渡し前の完成時の立会い検査を入念に行う

前述したように、工事が遅延した現場では突貫工事によって施工ミスが他の現場よりも増える傾向にあります。よって、買主や施主が行う完成後・引渡し前の立会い検査では、十分な時間をかけて入念に行うべきです。

完成時の立会い検査は、突貫工事がなくても買主や施主がきちんと見ておくべき機会ですが、工事遅延のあった物件ではその意識を強く持つべきということです。

この際、内装仕上げ工事のチェック(傷や汚れの確認)ばかりに気を取られず、床下や小屋裏の断熱材、床下の配管の接続、天井点検口から確認できるダクトの接続なども見ておいた方がよいでしょう。工事を急いだ現場ほどありえない箇所でミスを犯しがちだからです。

できれば、買主の方で内覧会立会い・同行(竣工検査・完成検査)サービスを依頼して専門家に施工状況をチェックしてもらった方がよいでしょう。

取引の進め方の注意点

新築工事が遅延したとき、買主や施主が注意すべき点は、書類上の問題や現場の建物のことだけではありません。遅延をきっかけとして適切な取引の進め方を取らないケースがあり、それが結果的に買主側に大きく不利に働くことがあるため、十分に注意したいところです。それをここで紹介します。

未完成の住宅

未完成の住宅の引渡しを受けない

工事が遅延して引渡しが遅れそうになると、建物が完成していないにもかかわらず、買主に無理矢理に引き渡してしまおうとする売主が必ず出てきます。不動産・建築業界の一般常識レベルで見ても驚くべき異常な行為なのですが、未完成物件を買主に平気で引き渡そうとする業者があるのです。

そういった業者の引渡し後の対応悪化によるトラブルは多く、引渡しを受けてしまった人から後悔の声を何度聞いたかわかりません。未完成の住宅の引渡しを絶対に受けないようにしてください。

新築住宅の完成まで残代金を支払わない

未完成だから引渡しを受けないと突っぱねたものの、売主から代金だけでも支払ってほしいと依頼されることがあります。住宅の売買において、未完成で引渡しも受けられない状況なのに、代金を全て支払うことなどはありえません。

ひどい業者になると、「引渡し日までに代金を支払わないと債務不履行で契約違反になる。そうなれば、違約金を請求するかもしれない」と脅すケースまであります。そもそも、引渡し日に完成せず引渡しできない業者の方が契約違反の可能性が高いので、これは異常な対応と断定してもよいでしょう。

このような悪質な業者だとわかった時点で自治体に相談するなどして、指導を要求してもよいでしょう。

引渡し遅延の有無は早めに確認が必要

どのような住宅であっても、引渡し遅延のリスクはありうるでしょう。よって、引渡し日の1ヶ月前ぐらいには工事が予定通り進んでいるのか、引渡し日に変更がないのか売主や建築会社に確認するべきです。

また、口頭による確認だけではなく、工程通りに進捗しているのか工程表と現場の進捗を照合して確認することをお奨めします。現場監督や工事監理者から、現場で工事の進捗の説明を受けながら、確認することが最も望ましいでしょう。

引越し業者の手配にも影響することですから、引越し依頼の前には確認したいものです。

新築住宅の工事に着手した後、当初は順調に進んでいた工事が途中から遅れだすことは少なくありません。多いと言っても過言ではないでしょう。

ハウスメーカーを含む建築会社が、多少の遅れがあったとしても調整できるくらいにゆとりあるスケジュールを組んでいたなら、大きな問題やトラブルになることもないのですが、最初からぎりぎりのスケジュールであれば、半月程度の遅延でも問題が大きくなることがあります。

できることならば、着工する前の段階で、着工日から引越し予定日までの期間について、ゆとりあるスケジュールにしておきたいものです。

竣工検査・内覧会立会い
新築の引渡し前の竣工検査に専門家を同行

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。