住宅購入のキャンセルと申込金・手付金・違約金

購入したいと思える物件に出会ってから、不動産購入申込をした後や売買契約を結んだ後に、何らかの事情により買主が購入をキャンセルしたいと考え直すことはよくあることです。住宅購入のキャンセルに関する質問・相談は多く、これまでにいろいろなケースのお話を聞いています。

そこで、住宅購入をキャンセルしたい人が知っておくべき基礎知識を解説しますので、キャンセルを検討している人は買主の負担やリスク、そして注意点を理解して不動産会社へキャンセルする旨を申し出るようにしてください。

なお、この記事では建売住宅や中古住宅、新築分譲マンションの購入を進めている人を対象としています。

売買契約前のキャンセル

住宅購入をキャンセルしたいという人のなかでも、そのキャンセルをするタイミングが売買契約の前という人もいれば、売買契約の後という人もいます。それぞれで対応に大きな違いがあるため、あなたの今の状況に合った知識を得る必要があります。

まずは、売買契約前の人を対象として述べますので、契約後の人はこの後の「売買契約後のキャンセル」を読んでください。

不動産購入申込後のキャンセル

売買契約前でキャンセルを考えているということは、既に売主に対して不動産購入申込をしていることでしょう。この不動産購入申込とは、その家を買いたいという意思を買主から売主へ伝えるものであり、まだ売買契約は成立していません。

何かの本やWEBサイトなどで、口約束だけでも契約が成立するという話を目にしたことがある人もいるのではないでしょうか。確かに民法ではそのようになっていますが、不動産の売買においては宅地建物取引業法によって、書面で契約を締結することが必須とされています。

つまり、住宅の売買に関しては口頭だけでは契約が成立しないのです。売買契約書に署名・押印していなければ、契約が成立していないため、この不動産購入申込後のキャンセルに該当すると考えてよいでしょう。

このタイミングで買主が行うキャンセルには、何らペナルティはありません。購入を中止する旨を意思表示して、申込時に支払っていた申込金も堂々と返金してもらいましょう。不動産会社によっては、申込金は返金できないと言うケースもありますが、それは違法行為ですから堂々と返金を求めてください。

仮契約後のキャンセル

住宅購入の様々な相談を聞いていると、仮契約という言葉が出てくることが何度もありました。一般的に住宅の売買において仮契約を結ぶということはありませんから、他の何かのことを言っているのですが、その何かをきちんと確認しなければなりません。

売買契約書で契約を交わしていなければ、前述した売買契約前のキャンセルに該当しますから、安心してキャンセルを申し出ましょう。なかには、契約したかどうかわからないという人のお話を聞くこともあります。いろいろな書類にサインしたが、契約書だったかどうかわからないとのことです。

サインするときには、何の書類であったか理解しておくべきなのですが、後から言っても仕方ないでしょうか。その書類を改めて読んでみて、売買契約書であるかどうか確認してください。

アネストの住宅インスペクション

売買契約後のキャンセル

次に既に売買契約を締結している人向けに解説します。契約後のキャンセルということは、売買契約を解除するということになりますが、当然ながら売買契約書で定めている条項や特約によって処理されることになります。解約(キャンセル)のタイミングや理由によって異なりますが、主だったものを以下で説明します。

買主都合による解約

売買契約後、買主の一方的な都合によって解約する場合はどうなるのでしょうか。例えば、単純にその物件を購入する気がなくなったとか、自己資金を準備できなくなったなどの理由が考えられます。

買主の都合で売買契約を解除する場合、契約時に支払った手付金は返金してもらうことができません。これを手付放棄と呼んでいます。逆に売主の都合で売却を取り止めたという場合には、売主は買主へ手付金を返金した上で尚且つその同額を支払わなければなりません。これを手付金の倍返しと呼んでいます。

解約のタイミング次第では違約金が発生

買主の都合による解約のなかでも、手付金の放棄だけではなく違約金の支払いまで求められるケースがあります。それは、手付解除をできる期限を過ぎてから買主都合でキャンセルする場合です。

手付解除をできる期限は取引によって異なります。売買契約書のなかで手付解除できる期日を定めていることもあれば、売主もしくは買主のいずれかが契約の履行に着手したときといった風に曖昧に見える取り決めをしていることもあります。前者の方が判断しやすいです。

手付解除をできる期限を過ぎてからキャンセルするならば、契約によって定めている違約金の支払いが生じますから注意しましょう。違約金の金額は契約書に記載しているはずですから、よく読んで確認してください。

特約による契約解除

売買契約後の契約解除としては、契約で定めた特約に基づく解除というものもあります。住宅ローン特約という言葉なら耳にしたこともある人も多いでしょう。それらについて説明します。

住宅ローン特約(融資利用の特約)

特約により契約解除の代表格が、住宅ローン特約です。最近の売買契約書のなかでは、融資利用の特約と書かれていることが多いです。

金融機関から融資を受けて購入するため、希望する融資を受けられないと購入できず困ってしまいます。そこで、融資を受けられないときには契約を解除できるという特約を付けるのです。実際に融資の一部や全部が否認されれば、この特約によって契約解除となります。

この解除の場合、手付金は買主へ返金され、違約金も生じません。

買い替え特約

他にもありうる特約としては、買い替え特約です。

買主が、自宅の売却成功を条件として次のマイホームを購入するという場合に付される特約で、所定の期日までに自宅を売却できないときは、次のマイホームの契約をなかったものにできるというものです。これによって解約された場合は手付金を返金してもらうことができ、違約金も生じません。

また、売主が自宅を売却する契約を結ぶときにも、特約を付ける場合があります。簡単に言えば、次の物件を所定の期日までに購入できなければ、自宅売却の契約をなかったものにできるというものです。売却する上でふりになることもあり、あまり多くは見かけませんが、頭の片隅にいれておくとよいでしょう。

他にも、売主と買主が互いに話し合って契約を解除するという事例もあります。

たとえば、対象物件に不具合があることがわかり、買主が売主に対して契約不適合責任(2020年3月までは「瑕疵担保責任」という)の対象だからと補修等を求めたとします。これに対して売主は、契約不適合責任の対象項目ではないと拒否することがあるのですが、そうなれば当然にもめます。

このとき、互いの主張内容で判断の難しいことがあれば、互いに長い時間と手間をかけて争うことが得策ではないと考えて、お互いの違約金を無くし手付金も返金したうえで契約を白紙に戻すといったこともあるのです。これは、交渉によって合意を目指す方法です。

住宅購入のキャンセルと言っても、様々なケースがあることがわかると思いますが、あなた自身のキャンセルがどれに該当するか見極めるところから始めるようにしましょう。

購入キャンセルを止めるなら

ここまで読んでみて、住宅購入をキャンセルするリスクが高いという人もいるでしょう。手付金の放棄や違約金が必要なら、現実的にはキャンセルする方が難しいことは多いです。そのまま購入を進めるなら、建物については安心感を得たいものです。

第三者の住宅診断(ホームインスペクション)で建物の施工ミスの有無や劣化状態を確認して、結果次第では売主や建築会社に補修を求めるなどの適切な対応をしましょう。

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執筆者

アネスト
アネスト編集担当
2003年より、第三者の立場で一級建築士によるホームインスペクション(住宅診断)、内覧会立会い・同行サービスを行っており、住宅・建築・不動産業界で培った実績・経験を活かして、主に住宅購入者や所有者に役立つノウハウ記事を執筆。